未来の二人

「まもり姉ちゃんだ」
 メッセージの通知に端末を開くと、見慣れた幼馴染の名前が映し出された。隣町の花火大会への誘いだった。
 アメフト以外で幼馴染と連絡を取るのは随分久しぶりだった。隣町の花火大会は人出が多く、昔はまもりとよく露店を見て回っていたのを思い出した。
 しかし今年は鈴音が行きたいと早い段階で口にして、二人で行こうと約束していたので、申し訳ないと思いつつ断るために返信画面を開く。瀬那が作り始めた返信文を眺めて鈴音が楽しそうにはしゃいでいたが、返信内容に反応を示した。
「やー、まも姐久しぶりだなー! ……ん、断っちゃうの? 悲しむんじゃない?」
「いや……だって鈴音、二人で行きたいって言ったでしょ」
 大きな目が一つ瞬いたあと、柔らかく笑みを作った。
 騒がしいのが好きなのに、珍しく二人が良いと言うものだから、瀬那は今年は何か違う催しが花火大会であるのかと思っていた。何もなかったとしても瀬那と二人で花火を見たいと言ってくれたので、実は張り切って楽しみにしていたのだ。
「……いいよ。だって近所のお祭りだし、皆来てたら会っちゃうし。……セナが気にしてくれたから今回はいいよ。賑やかなの好きだしね!」
 最近可愛い彼女ができたアメフト部の先輩は、女友達よりも彼女を優先すべきであると声高に言っていた。何を当たり前のことを、と皆真剣に聞いてなどいなかったのだが、今回のこれはその当たり前のことができていない気がする。ううんと悩み始めた瀬那を見兼ねたのか、鈴音はまも姐に会いたいと騒ぎ始めた。
「そこまで言うなら……でもほんとにいいの?」
「いいってば! 遊びに行くのなんて久々だし、どうせならモンジたちも呼ぼうよ」
 鈴音は明け透けだ。まもりに会いたいと言うなら本当に会いたいのだろうし、花火大会も二人でなくて構わないのだろう。それはそれで少し寂しい気もするけれど。
「……ちょっと先だけど秋大会が終わったら、鈴音の行きたいとこ行こう。前にできたテーマパーク行きたそうにしてたよね」
「……本当?」
「うん。まあできれば年明け以降に……」
 大会スケジュールを考えると随分先の話になってしまうが、そのあたりは鈴音もわかってくれている。部活漬けで振られたとぼやいていた水町の姿を思い出しながら、あまり甘えるのも駄目なのだろうとは思っているのだが、これが瀬那の精一杯だった。
「だったら私、アメリカに行きたい。向こうでセナの活躍を間近で見てたい」
 頬を染めた鈴音がにじり寄ってくる。飛び出てきた海の先にある国名に、瀬那はぽかんと呆気にとられた。
「え……あ、アメリカ? 海外かあ、そしたら色々と準備が……観光と、か……」
 アメリカに行きたい。その後に続けて鈴音が口にした言葉の意味に気づいた瀬那は、唖然としたまま頬を染めた。
 好意をはっきり口にすることが多いのに、時折鈴音はこうして遠回しに瀬那への想いを伝えてくる。それに気づくのはいつも数秒後、瀬那は大抵取り乱してしまうことが多かった。今回の比ではないけれど。蚊の鳴くような声で静止の言葉を漏らす。
「……ちょっと待って……何それ……」
「もう、相変わらず気づくのが遅いよ!」
 いつもいつも、どうして彼女は瀬那の一歩先を行く。真っ赤になった顔を両手のひらで覆い隠した。耳が熱いのでどうせばればれではあるのだが、照れた顔は鈴音に見せられるようなものじゃない。
 アメリカで瀬那の活躍を見ていたいなど、そんなの。
「……一生かかるかもしれない。いつ行けるかもわからないのに」
「連れてってよ。どれだけかかってもいいから」
 ずっと応援し続けるから。
 そう言って歯を見せた鈴音へ向けた瀬那の顔は、きっと笑ってしまうほど情けない表情をしていたはずだった。
「ずっと見てきたんだから、最後まで特等席で見せてよ」
 見慣れていたはずの鈴音の笑顔が、目を細めたくなるほど眩しく見えた。