来年は一緒に

「これから飛行機乗るよ」
『おう。そんで今回のお供えモンは何にすんだよ』
「うーん、そうだなあ」
 搭乗前の電話口で弥子は少し悩んで首を捻った。
 帰国する時は決まって父の墓参りをしており、今回は笹塚の墓へも参ることにしたのだが、お供え物は毎度吾代に購入してきてもらっている。墓前に花と、それから食べ物を供えたいからだ。自分で買うと到着する前に食べ尽くしてしまうので、それを防ぐために提案されたことだった。吾代にドン引きされたのはいつだったか覚えていない。化物扱いは常にされているので。
「たこわさ」
『は?』
「たこわさにしよ」
『墓前で酒でも飲む気かよ』
 確かに、ついでに酒を供えてもいいかもしれない。
 三年経ってもいまだ未成年である弥子は法律上飲酒ができないが、吾代なら飲めるからお下がりは渡してしまえばいいのではないだろうか。さすがに弥子が墓前で飲んでしまったらあの世から手錠をちらつかせてくるかもしれないし、と思いつつ、それはそれでやってみてもいいかもしれない、なんて考えてしまったけれど。
「だって思い出しちゃったから。デパート指定するから、そこの買ってきてね。お父さんの分も」
 わざわざ事務所まで差し入れに来てくれたこと。
 そうして思い出してしまったら、弥子の口はもうそれを迎える舌にしかならなかった。いや、お供え物であるということは重々承知していると一応の弁解をしつつ、涎を拭いて誤魔化すように笑った。電話口でも恐らく吾代にはバレているだろうけれど。
『はぁー、そうかよ。ったく、んなつまみで喜ぶようなのあいつしかいねえだろ。とばっちりで親父も可哀想だな』
「あ、大丈夫大丈夫。お父さんはお母さんの手料理以外ならわりと何だっていいから」
『あっそ……』
「それに吾代さん、私が帰るまでに海で強盗犯夫婦釣り上げといてって言っても無理でしょ?」
『当たり前だッ!』
 ひとつを思い出すと芋づる式に記憶は浮かび上がってくる。どんな発想だと意味がわからなかったらしく電話口で騒がしく問いかけてくる吾代へ三年前の釣りゲームの話を教えると、供える食べ物の話をしているのだと怒られた。
 あの時はどんどん出てくる魚料理に舌鼓を打って非常に満足したものだが、ゲーム自体は妙な人間を釣り上げたりおかしな方向へ向かっていたなあと弥子は力なく笑った。
「うん、まあ強盗犯は例えだけど……たこわさは私も好きだし、吾代さんもおつまみにできるしね」
『普通墓参りって菓子とか供えるモンなんじゃねえのかよ……』
「別に決まりとかはないと思うよ、仏様の好きなものとかで。たこわさはよく買ってるって言ってたもん」
 きっと彼なら喜んでくれるだろう。まあ、喜ばなくても責任をもって弥子がすべて食べるので問題などないはずだ。そのせいで弥子の食べたいものばかりを供えるようになっているのは否めないが。
 それでもやっぱり、魚を調理しては弥子に提供してくれていた記憶を思い出してしまったら、弥子がその時食べたいものを供えても怒らないだろうと甘えてしまうのである。