鮭大根布教委員会・4

「何か助手増えてない?」
「タダ飯食えるって聞いてきたぜ!」
 座っているだけでおかずが出てくると聞きつけた馬鹿がいるらしいが、前回よりも男子が増えている。本日最後の授業の時間にちらりと声をかけておいた、と胡蝶が言っていたが、恐らくそれで来ているのがなかなかの人数いるのがわかった。
「ほらほら実弥も」
「俺は別に……」
「げ。不死川が来たな……」
 司書教諭の粂野に連れられて来た不死川に気づいた宇髄はつい声を漏らし、隣にいた胡蝶が不思議そうに顔を上げた。
「あいつは要注意だ」
「え?」
 黒板近くで生徒たちに背を向けひそひそと胡蝶へ話しかけると、胡蝶もまた意を汲んで小さな声で応えた。遠巻きに見ているはずなのに不死川からの視線が物凄い刺さってくるのを背中に感じていた。
「あいつはな、何せ面食いだ」
「面食い」
「おう。俺の勝手な見解ではあるが――特ににこにこしてる胡蝶先生みたいなのがタイプとみた」
「あらあら。光栄です」
「違ったらどうするんだ……」
 聞こえたらしい悲鳴嶼が困ったような声音で宇髄を窘めてくるが、宇髄としてはほぼ確定だと見ている。不死川は間違いなく面食いだと。そして好みのタイプまでも。
「……冨岡のアレ、近いと思わねえか」
「………!」
「え……私と? そうでしょうか?」
 胡蝶自身はあまりピンと来ていないようだが、悲鳴嶼は言葉を飲んで不死川へと目を向けた。どうやら宇髄の言いたいことを理解してくれたらしい。
「あいつの姉ちゃんは胡蝶先生みたいなおっとりにこにこしたタイプらしいからな。素質はある」
「おっとり……ああ、それならわかります。冨岡先生って意外とおっとりしてますよねえ。やだ大変、ライバルができちゃうわ。あんなの見たらきっとイチコロですもの」
「おう……イチコロってのも古いな」
「しかし、不死川先生が自ら入会するだろうか。冨岡先生とはそりが合わないだろう」
 それはそうなのだが、笑顔に釣られた不死川がまかり間違って素直になってしまえば、冨岡は絶対に受け入れてしまうことが確定している。教師を勧誘したいと言った後、奴は真っ先に不死川にビラを配りに行ったのである。要らぬ言葉を付け足したせいでびりびりに破かれていたが。今日も本当は来る気もなかっただろう。
「自分に置き換えてみるとな、……俺だって入る気なんか微塵もなかったから」
「………」
「何だか言葉に重みがありますね……」
「まあ自分で作ったやつは笑わねえって話だし、今日も大丈夫だとは思うが」
「……思いますか? 私たちはいつ落ちたんですか?」
「………」
 落ちるなどという言い方は、以前までの宇髄ならば笑い飛ばすところだった。だというのに今は神妙な顔で黙り込むしかできないのである。別に手篭めにしてやろうとか思っているわけではないが。
「……うん、まあ、最後まで気は抜けねえな」
「でしょう! あ、来ましたよ」
 廊下を覗いた胡蝶に釣られて宇髄と悲鳴嶼が窓から顔を出すと、こちらへ歩いてくる人影があった。顔が死んでいるが足取りはしっかりしている。鮭大根のためなら何でもやるというのは間違いではないらしい。
「胡蝶先生。前より酷くなってる」
「可愛いですよ!」
 女子生徒の歓声、及び男子生徒の悲鳴が聞こえる。楽しげな胡蝶が冨岡の背中を押して家庭科室へと連れてきた。
「メイドの頭のあれだ」
「ホワイトブリムというらしい……」
 悲鳴嶼の言葉にへえ、と関心の声が上がる。
 メイドといえば、でよく着けられている白い飾り。前回三角巾だった頭にホワイトブリムが装着されている。これでは髪を抑えるのもままならないと若干冨岡の機嫌がよろしくない。ちなみに首から下はメイド服ではなくジャージの上に白いフリフリエプロンである。
「どうせなら全部メイドにすりゃ良かったのに。何でメイドじゃねえの?」
「誰が喜ぶんだそんなもの」
 少なくとも俺らは喜ぶな、と胡蝶と煉獄を眺め、ちらりと悲鳴嶼にも目を向けた。この白いエプロンすらどこから持ってきたのやらと思うが、あの笑顔を見た後だからか似合っているように見えるのは宇髄だけではないだろう。
「おいそこ、写真を撮るな。神聖な家庭科室でスマホをいじるんじゃない」
「冨岡先生もう家庭科教師になったほうがいいんじゃない?」
 そこを怒るのかよ、と宇髄は馬鹿になった冨岡を眺めたが、表情は正門で風紀を取り締まっている時と変わらない。要するに、こいつにとって家庭科室での調理は風紀の仕事と何ら変わりないもののようだった。これが緩むのは終わった時と他人の鮭大根を食べた時だ。
「しかし人増えたな。事前予約制にしねえと」
「もはや布教とは程遠いな!」
「宇髄先生と煉獄先生がいるから更に来るんですねえ」
「その理屈だと胡蝶先生のせいでもあるな。授業終わりに声かけたんだろ? まあ何より冨岡自身のせいだけどな。あんなん面白過ぎるだろ……」
「フリフリエプロン着た体育教師か……」
「好きで着たんじゃない」
 聞こえていたらしい。宇髄はフリフリの冨岡を見て確かに喜んではいるものの、面白がっていることも事実だった。普段と変わりない声量と調子で良いと思う、などと煉獄が口にしているが、生徒からは慰めに見えても宇髄にはわかる。あれは本音だ。素直。

「普通の煮物じゃねェか、わざわざ会員になるほどかって……」
 二度目の開催も無事成功し、生徒たちを帰らせた後、留まっていた不死川が話しかけてきた。司書教諭の粂野も近づいてくる。
「入らねえ奴には用はねえんだよ」
「何ィ?」
 しっしと手を払ってやると苛ついたらしい不死川が臨戦態勢に入ろうとした。相変わらず瞬間湯沸し器である。冨岡も相当な煽り癖があるものの、不死川の堪え性のなさも問題だ。
「冨岡先生、美味かったです」
「ありがとうございます」
「で、うち実家が農家で。もしよかったらどうぞ、大根」
 大根を差し出して話しかけてきたのは粂野だ。冨岡は穏やかで朗らかな人間が相手ならきちんと言葉を返せるようなのだが、それがまた不死川には苛つく原因になるのだろうな、と宇髄は思っている。
「実弥といつもやり合ってる冨岡先生に! 世話かけちゃってすみません」
「世話かけられてんのはこっちだろォ!」
「いやあ、お前も悪いとこあるよたぶん。どうぞ」
 差し出された立派な大根を受け取った冨岡は少し困ったような素振りを見せたが、やがて口を開いて粂野へと顔を向けた。
「ありがとうございます」
 ふ、と柔らかく笑みを向けて。宇髄たちが止める隙もなく。隣にいた不死川の肩がびくりと揺れた。
「お。はは、何だ笑うんじゃん。なあ実弥……おーい、どうした?」
 こいつ大根だけでもそうなのかよ。
「冨岡先生、着替えに行きましょう! さあさあ!」
「え。胡蝶先生、着替える必要はっ、」
「早く早く!」
 冨岡の腕を引っ掴んだ胡蝶がばたばたと廊下へ引っ張っていき、そのままどこかへ連れ去っていった。
 ううん、最悪だ。まず終わってから話しかけられるのを止めたほうが良かったらしい。さて。
 固まっている不死川の肩に腕をまわし、宇髄は一言声をかけた。
「忘れろ」
 びくりと過剰に肩が震える。不審そうな目で粂野が宇髄と不死川を見てくるが、不死川の顔は凶悪さが更に上がっていた。
「お前が今見たもの全部忘れるんだよ」
「えっ? それ催眠術かなんか? 今見たものって? 冨岡先生の笑顔とか?」
 ポケットから取り出した紐を通された五円玉を翳した宇髄に質問ががんがん飛んでくるが、当の不死川は再起動できていない。それどころか顔色が変わってきた。
「実弥……まさか」
「うるっせェェ!」
「うるせえのはお前なんだわ。いいから忘れろって。大丈夫、この先あいつには充分言い聞かせといてやるから」
「あー……もしかしてこの会員って、冨岡先生の笑顔にやられた人たちの集まりとかですか?」
「よくおわかりで」
「はァ!? ひ、悲鳴嶼先生と胡蝶もかァ!?」
 そういうことだと笑みを見せて頷いた。ようやく意識が浮上してきたらしい不死川が声を張り上げ、感心したような声を漏らす粂野の胸ぐらを何故か掴んでいる。本当にどこにでも喧嘩を売る奴だ。
「へえー。じゃ、実弥も入んないと」
「………っ、何でだァ!」
 せっかく粂野が助け舟をだしてくれているのに、天邪鬼が邪魔をして入ると言えないらしい。まあ驚き過ぎて納得できていないのだろう。
「新規会員には入会試験があるが!」
「うぉっ」
「試験だァ?」
 背後から突然の大音量に宇髄も不死川と一緒になってびくついてしまった。振り向けば相変わらずの笑顔で煉獄が立っている。
「ああ。冨岡先生が唸る鮭大根を作った者が入れる」
「おい煉獄、教えんなよ」
「まあまあ。だが今は募集を締め切ってる」
「何でですか?」
 宇髄の苦言を朗らかに躱し、粂野の問いに煉獄は続けて口を開く。
「既存会員の試験がまだだからだ!」
 別に仮会員でもいいのでは? なんて提案もいずれ飛んできそうな気がするが、そこは聞かぬふりをしておこうと決めた。
「こいつは名誉会員なので免除」
「何でだよォ!?」
「んなのこっちだって聞きたいわ。名誉会長の鶴の一声で免除になったんだよ」
「へえ。特別扱いだ」
「そうとも!」
「隠さねえなー」
 しかし、冨岡の信頼を得ている時点で誰よりも一歩進んでいるのは事実なのである。天然でやっているのか策を弄しているのかは知らないが、煉獄より信頼されるのは今のところなかなかの難易度だ。不死川が入ったところで、である。
「うるせー誰が入るかァ!」
 ゴミ箱でも蹴飛ばしそうな勢いで廊下へと飛び出そうとしたところで、戻ってきた冨岡とばったり鉢合わせて立ち止まった。ぎくりと肩を揺らした不死川とは逆に、先程大根を貰った時とは大違いのいつもの無愛想である。
「入らないのに食べにくるとは……余程暇らしいな」
「――連れて来られたんだよこっちはァ! 帰んぞォ!」
 苛ついたのが手に取るようにわかってしまった宇髄としては、冨岡の煽りが不死川の逆鱗に触れやすいのをどうにかしなければ何も変わらないだろうと結論づけることにした。何か始まるかも、と少し考えていたのが馬鹿だったようだ。
「暇なのに帰るのか……」
「……え? 煽ったせいで帰ったんだろ」
 何故かしょんぼりしている冨岡に声をかけると、何故か不思議そうに首を傾げられた。嘘だろお前、無意識であの煽りをかましたのか。宇髄たちにはそれなりに話す癖に、何故不死川にはそうなのだ。いや、仲良くならないとああなってしまう冨岡の口が悪いのか。
「冨岡先生的にはじゃあどうして来たの? って普通に聞いてるんですね」
「この翻訳ができたら入会とかでいいんじゃねえの……」
 どちらかといえば入会したらちゃんと話すようになった、もしくは翻訳可能になったのだが。
 後から入会してくる奴らまでその道を辿らなくてもいいのではないかと思う。そして恐らく、いや間違いなく皆同じことを思っている。
(このままでいっか)
 冨岡に対してのスタンスを全員に確認したわけではないが、考えることは大体わかるのである。

*鮭大根ショック再び

不死川は混乱していた。
 半月前のあれも大概驚いたものだったが、今見えているあれに思いきり固まってしまっていた。あれとはあれだ。弁当らしきものから箸を運び、口に入れた際に晒されたあの顔である。
 口に入れた料理を堪能するように、幸せそうに口角が上がる。釣り上がっていたように見えていた目尻もだらしなくやに下がっていた。誰だァこいつ、本当に冨岡かァ。ふと不死川に気づいた奴が手招きして隣をべしべしと叩いた。座れということだとは理解した。ジェスチャーを使ったほうがスムーズに意思疎通ができるではないか。
「たまにはおはぎ以外も食べろ」
 おはぎが主食だと思われているらしい。無愛想の擬人化だとか何だとか言われるほどの鉄仮面だったはずが、近寄ってきた不死川に嬉しそうに笑みを向けて冨岡の隣へ促してくる。きゅん。何がきゅんだよふざけんなァ。不可解な動きをした心臓を力の限りぶん殴った。
「心肺蘇生の練習か?」
「うるせェ……」
「そんなものは今やらなくていいからこれを食え。美味いから。この世の何より美味いから」
 普段より口数が多いのは何故か。機嫌が良いと口もよく動くのかもしれないし、表情筋もだるだるになるのかもしれない。満面の笑みで差し出されたのは箸に掴まれた鮭と大根だ。布教委員会のやつだった。
 これは一体誰なのか。本当に冨岡なのだろうか。あまりに苛立ちが募り過ぎて幻覚を見ているのかもしれない。こいつ笑うと印象変わり過ぎるなァ、これがギャップ萌えだとか抜かしてたやつか。かわ……いやいや、などと逃避しかけた脳のまま口をゆるりと開けた。
「あっ」
「美味い!」
「………!?」
 不死川の頭をぐいと押し退け、差し出された鮭大根を頬張ったのは颯爽と現れた煉獄だった。唖然として迎えたのは不死川だけではなく冨岡もだったが。
「……割り込んでまで姉の鮭大根を気に入ったのか……。それは嬉しいが、今のは不死川に布教させようとしたのであってお前に食べさせるためのものじゃない」
「すまん! 腹が減ってたのでな!」
 そうかと頷く冨岡は苦言を呈しただけで怒ってはいないらしい。何だか知らないが鮭大根を煉獄が気に入ったことで好感度が上がっているらしく、また見たことのない笑みを浮かべている。こんなに表情筋が仕事をしている冨岡など冨岡ではないというのに、姿かたちは冨岡なのである。
「おいもう一度だ、早く食べろ」
 またも箸を差し出してくる冨岡に顔を歪めると、その冨岡の手首を掴んだ煉獄が言い聞かせるような口調で話しかけた。
「きみが手ずから差し出さなくても、タッパーごと渡せば食べたい分だけ食べるだろう」
「いや……全部食べられたら困る」
「……人のモン全部食うほど卑しくねェわ!」
 激しく馬鹿にされたと解釈した不死川は勢い良く立ち上がったが、それならばいいとまた冨岡に無理やり座らせられた。服が伸びる。早く食えとタッパーごと押しつけてくるのを忌々しくも受け取ってしまったが、煉獄が間近で不死川を凝視しているのが少々気になる。何なんだ、本当に。
 不死川だってさっさとこの場を離れたいが、そのためにはさっさと食べなければならないのだろう。押しつけてくるタッパーに差し込まれた箸を掴み、鮭大根を掴み上げたところでふと思い出した。
 この箸は先程までゆるゆるの顔をした冨岡が使って食べていた箸である。
「うがあァァ!」
「遠吠えか?」
「うるせェェ!」
「いや全く見てられんな! いくぞ不死川先生!」
 重箱らしき包みから自分の箸を引っ張り出した煉獄は、鮭大根を掴んで無理やり不死川の口へと捩じ込んだ。
「どうだ、美味いだろう。この世の至高だ」
 これはドヤ顔だ。こいつ鮭大根が絡むと人が変わりやがる。ピンポイント過ぎるだろう、もう少し対人にもそれを影響させろ。せめて自分と話す時くらいは……いや、やっぱり駄目だ。気を取られて絶対に話が頭に入ってこない。
「……つうか家庭科室で食ったのと味なんか変わんねえだろォ」
「変わるに決まってるだろう、姉さんが作った本物の鮭大根だぞ」
「知らねえよ、てめェが振る舞ったやつは一体何だったんだよォ……」
「あれは紛い物だ」
 紛い物を生徒に振る舞うんじゃねェよ。
 そう思いつつ味を思い出す。生徒たちが騒いでいたとおり、悪くはなかったと記憶している。というよりむしろ。
「別に普通に美味かっ、………」
 口から飛び出た言葉を遮るように手のひらで覆うが、ばっちり二人には聞こえていたようだ。ただでさえ眼力のある煉獄の目が不死川を凝視してくる。
「可哀想な奴だな。本物と偽物の区別もつかんとは……」
「……あァ?」
 図らずも褒めたのにこの言い草だ。どれだけ笑顔が眩しかろうとこの悪態をつく口だけは腹が立つ。前言撤回、別に眩しいなどとは断じて思っていない。
「ほォ。なら名誉会員とかいう煉獄には区別ついてんのか?」
「ん? 俺は冨岡先生の作った鮭大根が好きだ!」
「………、……お前も可哀想な奴だ」
 眩しい煉獄の笑顔を向けられた冨岡の頬がほんの薄っすら朱に染まったのを目の当たりにし、不死川は思わず凝視して固まった。せっかく褒めたのにしょげた煉獄が本当に可哀想だろうが。文句を言いたいのに喉から声が出なかった。
 だって目の前の冨岡は、何やら照れているのである。
 そしてその冨岡を眺めて何かに気づいたらしい煉獄はしょげる前より上機嫌になった。
「そうだろうか! 俺はだいぶ幸せ者だと思うぞ。良いものを見せてもらったし」
「何だ?」
「何でもない」
 二人どころか煉獄本人しかわからないようなことを口にして、不死川はそこから逃げられないまま冨岡と煉獄に囲まれ昼食を取る羽目になった。
「煉獄先生は味覚から治すべきだな」
「俺の味覚はおかしくないつもりだが。きみも自分の鮭大根は悪くないと言ってただろう!」
「姉の鮭大根には……」
「俺にはきみの料理が一番美味く感じるぞ」
 何を見せられているのだろうか。
 ほわりと頬に赤みが灯るのを目の当たりにした不死川は、成人した男が照れたところで可愛げなど一つとしてないと考えつつ、冨岡から目が離れなかった。その隣に陣取っている煉獄が、視界の隅で見たこともない優しい笑みを浮かべている。
 本当に何故自分はここに居させられているのだろうか。
 煉獄の言葉で照れる冨岡と、それを喜ぶ煉獄の様子を眺めるなど。

「やべえ。見守ってるほうが面白いわ」
「鮭大根布教委員会改め、冨岡先生見守り委員会にしましょうか」
「ばれるから内密にな」
「我々しか入ってないから大丈夫だろう……」
 こればかりは不死川を引き入れたほうが絶対に面白くなることを察した。何せ煉獄と冨岡にあてられて不死川もちょっとおかしなことになっているからだ。巻き込まれている不死川の観察が一番面白い。
「いいんですか? 宇髄先生は冨岡先生狙わなくて」
 勧誘するかと呟いたのを聞かれたらしく、胡蝶は笑みを向けながら宇髄へ問いかけた。
「ははは。胡蝶先生こそお」
 肘でつついてやるとあらあらと胡蝶は楽しげに笑う。愛でる方向に向いている気がするのだが、胡蝶のスタンスはいまいち読めない。
「煉獄がずっと必死だからな。俺は見るのが面白えわ」
「うむ……恋とは良いものだ……」
「お二人を皆で囲うのが一番楽しいかもしれませんねえ、うふふ」
 この様子だと今のところは冨岡とどうにかなりたいわけではないのだろう。この先気が変わる可能性は、まあ宇髄たちにもあるかもしれないものだ。一先ず今は煉獄と冨岡を観察することで三人は一致していた。