鮭大根布教委員会・3

 連れていかれた。
 煉獄だけを引っ張って冨岡は去っていった。
 練習などと言っていたから料理をさせたくて連れていったのだろうが、鮭大根をまだ食べるつもりなのだろうか。冨岡自身は一口程度しか残っていなかったのだから、満足できていないのだろうことはわかるが。
「これから会員を増やすんですよね……」
 布教委員会なのだから冨岡は人数を増やしたいだろう。そのための本日の企画だったのだし。
 カナエの一言に宇髄は何やら思案するように黙り込んだ後、スマートフォンを取り出して何やら操作し始めた。
「俺を三号にしろって言っとこ」
「あっ、狡いです宇髄先生」
「言ったもん勝ち」
 勝ち負けではないとは思いつつ、まあ入会希望も宇髄が先だったので仕方ないかと諦めた。そう、もはや入会表明した者たちは今更なのでとりあえず置いておくしかない。そこよりもだ。
「他の方にお勧め……します?」
「………」
「……したくはねえな」
「宇髄先生もそうなんですねえ。私も知る人ぞ知る感じでいてほしいです」
「あの様子じゃまじだったのかもなあ。用務員の鱗滝さんの話だとちょろいっぽい感じのこと言ってたけど……」
 何やら冨岡と仲の良い用務員に彼の性格を聞いたことがあるらしい。
 当時は鱗滝も冗談を言うのかと意外に思い、そしてどうせならもう少し現実的な冗談を言えば信じる者も出てくるだろうに、と内心で駄目出しをしたなどと宇髄が呟いた。
「……まあでも、有り得ますね。今ならわかります」
「だよなあ……」
「ふむ……会員増やして大丈夫だろうか……?」
 何かすぐ騙されそう。
 成人したスパルタな体育教師に浮かぶ感想ではないが、この場にいる三人の心は恐らく一致している。あの笑顔を見てから、何だか物凄く冨岡のことが気になってしまうのだ。放っておいたら良からぬ人にもころりと気を許してしまいそうな危うさを汲み取ってしまったのである。
「………。人が増えないように画策しとくか」
「しかし、あまり冨岡先生をいじめるのは良くないぞ……」
「いじめじゃないっすよ、会員は選ぶべきだって。鮭大根に好意的な奴なら誰にでも懐きそうじゃん」
「……不安ですね」
 布教したい冨岡の意向は尊重してやりたいものの、カナエたちの気持ちとしてはこのままひっそりしておきたい。どうすべきかと悩み始めた。
「……試験制にするか?」
「そうしましょう。冨岡先生を唸らせる鮭大根を作った人が会員になれる」
「それは……、煉獄先生に会員資格がなくなるのでは……」
 一号なのに。颯爽と連れていかれた煉獄を思い出し、家庭科室での声出しも思い出し、カナエは我慢できず吹き出した。

 鮭大根を食べた時の表情は無事変わらずではあったが、その後がやはり大丈夫ではなかった。
 冨岡は入会希望者に笑みを向けることが確定してしまったので、これから先入会した会員はそれを見る羽目になる。できれば控えてほしいところなのだが、どうにかならないものだろうか。しかしまさか笑うのを控えろなどという突っ込みができるわけもない。
「煉獄が入ってから人が増えた」
「ん?」
 考え事をしていた煉獄はふいに隣を歩く冨岡へ目を向けた。
 好評だったことは提案した煉獄にとっても有難いものではあった。広めたい冨岡が喜ぶならそれは良いことである。良いことが起きたことで晒してしまう表情が問題なだけだ。
「俺一人ではどうすべきかわからなかったから、――ありがとう」
「………!」
 会員になってから、冨岡は笑みを向けることが増えた。
 鮭大根を食べた時の表情とは違うけれど、それでも嬉しそうに煉獄へ向けられる顔は柔らかい。大きな太鼓でも叩いたかと錯覚するような心臓の音に思わず煉獄は息を詰めた。
「こっ、こちらこそ!」
 百八十度ひっくり返ったような声が出てしまったが、冨岡は気にならなかったらしく満足げに笑ったまま前へと顔を向けた。知名度が上がっていくことが嬉しいのだろうことはわかる。煉獄だってさつまいもが市民権を得ていなければきっと布教活動をしただろう。
「しかし、……大々的な布教もいいが、俺はまた二人で食べたい」
「そんなに気に入ったのか……いつ来てもいいと言った。それに今から練習だ」
「……そうだった!」
 ぽろりと出た本音を拾った冨岡は、煉獄を喜ばせる言葉を口にした。
 彼は言葉足らずの口下手だったはずだが、何だか煉獄にはきちんと喜ぶ言葉を見つけて伝えてくれる。仲良くなると会話も滞りなくできるのか、煉獄が特別ということなのか。後者だと嬉しいのだが、笑みを深めて横顔を眺めた。
「……考えたんだが。火を使わないものなら作れるんじゃないか? レンジは使えると言ってただろう」
「レンジでできる料理があるのか! 教えてくれ!」
 それは初耳だ。鮭大根もレンジでできたりするのだろうか。あの至福の表情を、できれば煉獄の料理でも引き出したいと思っているのだが、道のりが遠いことくらいは自覚していた。
「姉は何でも知ってる」
「そうか、誰でもやれるんだな。うちの母がレンジを活用してるかはわからん!」
 何せ立入禁止である。いやレンジは使えるので厳密には立入禁止ではないのだが。一応控えめにコンロを使いたいと打診してみたものの、まだまだ母の信頼は得られない様子だった。レンジで料理が作れるなら、それを食べてもらえれば少しは変わるかもしれない。煉獄は期待した。

「凄いぞ冨岡先生! 俺でも料理ができるとは」
 調味料を混ぜ合わせて皿に盛りつけたさつまいものサラダに感動していると呆れたような目を向けた冨岡は、それでも微笑ましげに目を細めた。また初めて見る表情だ。
 レンジ調理で出来上がった料理である。さつまいもと混ぜるきゅうりも包丁ではなくスライサーを使って薄くスライスしたものだ。冨岡が小さい頃そうやって包丁を使わない手伝いをしていたらしい。
「しかし、さつまいも料理は嬉しいが……鮭大根はいいのか? 練習は」
 また送られてきたというさつまいもを使った料理がテーブルに所狭しと並んでいるが、冨岡の部屋に寄る前にスーパーで鮭と大根を購入したはずだった。座ろうとした冨岡がぴたりと動きを止め、少し罰が悪そうに口を開く。
「……忘れてた」
「ははは。きみは意外と抜けてるな」
 せっかく買ったのに使わないとは。明日使えばいいのだろうが、これも初めて知る部分だ。鮭大根が絡む冨岡は柔らかい表情を見せてくれるが、大事な好物の存在を忘れることがあるとは。
「煉獄の好物だから」
「んっ? それは一体どういう意味だ?」
 手を合わせて箸を取り、椀を持ち上げて味噌汁を一口飲む。小鉢に分けたさつまいもサラダに箸を向けるのを眺めた。
「お前がさつまいもを食べてるのを見るのは面白い」
「面白いか?」
「ああ。嬉しそうに食べるから……お前が喜ぶと嬉しい」
 ――それはもう俺のことが好きなのでは?
 辛うじて口に出すのを止めた結果、煉獄は神妙な顔をしていたらしい。また少し罰が悪そうに煉獄から目を逸らした冨岡が、気を悪くしたかと呟いた。
「まさか! 俺も嬉しい!」
「さすがにもう送ってこないと思う」
 煉獄がここに来るのはさつまいもが食べられるからという理由ではないが、まあいいかと思い直した。まず間違いなく冨岡は煉獄を好意的に見ているが、それがどういう好意なのかいまいち判別がつかない。煉獄の求める好意なのではないかと、願望も篭めた予想はしているが。
 会員も増えたことだし、少々不安も過ぎってくる。
 早いうちに手を打たなければ冨岡の笑顔に釣られた者がもっと増えていくだろう。現に二人も増えてしまったわけなので。

*

「というわけで。入会資格を作ることを提案します」
「何がというわけなのかわからない」
 翌週の放課後、仕事を終えたらしい冨岡を捕まえて宇髄たちは例の件を提案した。あの時の微笑みは幻だったのかと思うほど冨岡の顔は無愛想に戻っていたが。
「何故資格がいるんだ……俺は鮭大根を広められればそれでいいんだが」
「駄目ですよそんな、危険です」
 何が? と首を傾げる冨岡の背後に座っていた煉獄は真剣に話を聞いていた。
「冨岡先生を唸らせる鮭大根を作った方が会員になれる、というのはどうかと」
「異議あり!」
 だろうな、と宇髄は納得した。胡蝶の言葉尻に被さるように挙手して異議を唱えた煉獄は、そもそも料理ができないという理由で先週の鮭大根会で声出しだったわけである。会員抹消される恐れがあるのだから。
「それは冨岡先生が食べてジャッジするのか?」
「一応そのつもりですけど」
「駄目だ、本当に駄目!」
「は? 何でだよ」
 妙な必死さが見える。料理ができないこととはまた違う要因がありそうな煉獄の様子に、悲鳴嶼と胡蝶も少々不思議そうに首を傾げた。まだ残っている職員室の面々も不思議そうに見ていたが、会話に入ってくる様子はない。
「俺が食べるのか……」
「一考の余地もなく必要ないだろう! 考えるんじゃない!」
 煉獄のなかなかの必死さに冨岡すら不審そうな目をちらりと向けたが、視線は宇髄たちへと流れてくる。そして相変わらずの無愛想で口を開いた。
「煉獄先生は名誉会員だ、資格は要らん」
「!?」
「何だよその特別扱いは」
「特別で何が悪い。俺しかいなかった布教委員会に入ってくれたのは煉獄が最初だ」
「俺らその布教委員会知らなかったんだぞ」
「私は聞いたことがある……」
「ごく一部にしか言ってねえんだろ」
 しかも布教活動などしていなかった委員会だ。宇髄も購買のくのいち三人衆とふぐ刺し堪能委員会を掲げているが、きちんと月一回食べに行っている。
 冨岡の特別扱いに胸を押さえて黙り込んでいた煉獄が再起動したらしく、冨岡の手を掴んでありがとうと叫んだ。こいつはもう冨岡に好意があることを隠していないらしい。
「とりあえず煉獄の試験は要らない。というかこれからも要らないと思う。食べられるのは有難いが……」
「食いたいんだろ? ならやろうぜ」
「駄目だ!」
「何なんだよ、免除なのに。何隠してんだ煉獄」
 肩に腕をまわして冨岡から遠ざけ、宇髄は煉獄に口を割るよう促した。むむむと眉間に皺を寄せ、言いたくないと口にする。何故ここまで頑ななのかと思考を巡らせた時、ふと以前に他ならぬ煉獄から教えてもらったことを思い出した。
「……そういえば最初はギャップがどうとか言ってたよなあ。鮭大根を食べてる時の、だっけ?」
 ぎくりと肩が揺れる。口角を上げたまま煉獄の表情は固まった。どうやら正解のようだ。
 要するに、鮭大根を食べている時の冨岡の顔を見られたくないということか。宇髄に向けられた笑みを見た時も驚いたのだから、確かに会員に満遍なく見せることになるのは頂けない。
「冨岡先生は……誰が作ったものでも嬉しいのか?」
 冨岡に聞こえないようひっそりしていた宇髄と煉獄のやり取りを静かに見守っていた悲鳴嶼が問いかける。少し考えてから冨岡は口を開いた。
「一番は姉のですが、あまり他の人のは食べたことがないので……でも、嬉しいと思います」
「そうか。ふむ……煉獄先生」
「は、はい」
「前回会員になった我々は許してくれないか? 一先ず我々が作ってどうなるか調べよう」
「……そうですね。わかりました!」
 悲鳴嶼も煉獄が何故止めようとするのかを察したのだろう。一人だけがわかっていない会話だが、勝手に進んでいく話に冨岡も諦めたらしく、無愛想を余計にむすりとさせたまま黙って聞くことにしたようだった。
「じゃあ悲鳴嶼先生から試験ですね。場所はどうしましょうか」
「家庭科室?」
「借りるのも悪い……うちでいいなら来るといい」
「いいねえ、悲鳴嶼先生ん家で宅飲みだな」
 一先ず会員二号の試験を開催することに決定し、日にちを決めて仕事を終わらせることにした。

*

 入会試験などというものをやる理由が全くもってわからないわけだが、名誉会長であるはずの冨岡を差し置いて、何やら楽しげにする四人の空気を悪くするわけにもいかず黙ることにした。
 冨岡としては試験などを設けて敷居が高くなられると布教がしにくくなるのではないかと思うが、布教案を挙げて成功させてくれた煉獄が頷いたのだから大丈夫なのだろう。冨岡は会員一号である煉獄に絶対的な信頼を置くようになっていた。
「はあ……」
 だというのに、当の本人はやけに落ち込んでいる。帰り際に一緒に帰ろうと誘われ、宇髄が何か言おうとしたのを振り切って引っ張られてきたわけだが、いつも快活な煉獄の元気がないのは気になってしまう。世話になっているのだから役に立ちたいし相談してほしいのだが。
 冨岡が様子を窺っていることに気づいたのか、煉獄は普段とそう変わらない笑みを向けてから、少し恥ずかしそうに頬を掻きながら白状した。
「……作れないから仕方ないんだが、一号の俺が最初ではないかと思ってな」
「免除は駄目だったか」
 試験の話か。個人的には義勇も本当に試験は要らないと思うが、周りが進めていくのと鮭大根が食べられるということについ釣られてしまった。元気がなくなるほど気にしていたとは。
「駄目というか……俺は会員一号だからきみには一番に食べてほしかった。不甲斐ない」
 きゅん。
「………?」
 心臓が妙な動きをした気がして、冨岡は服の上から胸を押さえた。どうしたと問いかける煉獄に何でもないとかぶりを振った。
「……お前には、代わりに俺が作ってやる。さつまいもの……」
「! 本当か、ありがとう!」
 隣を歩いていたはずの義勇の両手を掴まれ、無理やり身体ごと煉獄へと向けさせられた。妙な動きをした心臓が大きな鼓動を叩き始めたことに驚きつつ、冨岡は勢いのままに頷いた。
 急に手を掴まれて驚いたのだろうか、離して歩くのを再開した後も心臓は落ち着かなかった。一体何だと考えながら、煉獄が喜んでいるので良かったと思い直す。特別扱いだ何だと宇髄は文句を言っていたが、鮭大根を美味いと言って会員になってくれたのは煉獄が最初だ。宇髄たちを引き入れられたのも煉獄のおかげである。冨岡にとって煉獄の特別扱いは当然の帰結だった。

*

 切り分けられた大根と鮭を掴んだ箸が口に運ばれ、咀嚼する口角が上がって目元がふにゃりと綻んだ。普段の無愛想、切れ長の目が幸せを感じると目の前の顔になるのだと思い知ったのはその場で見ていた全員である。
「美味い。……どうした?」
「……何でもねえ」
 宇髄は何とか声を出したが、悲鳴嶼と胡蝶は胸を押さえて俯いたまま身動きが取れないようだった。煉獄もまた黙っていたが、目だけはかっと見開いてまるで網膜に焼きつけようとしているかに見えた。
「冨岡。生徒は勧誘するな」
 肩を叩いてそう告げると、普段の無愛想がショックを受けたように顔を歪めた。確かにこいつは負の感情だけは惜しげもなく表情に晒していたわけだが、こんな顔もするのかとぼんやり考えた。
「何故だ」
「お前、教師がそんなもんに勧誘したら強制になっちまうだろ。生徒は断れねえんだから食わせるだけにしろ」
「………、………。……わかった」
 とんでもなく悔しそうに顔を歪めた冨岡は、やがて蚊の鳴くような声で了承の意を示した。全くもって不本意であると言外に伝えてくるが、胡蝶が親指を立てて宇髄を労っているのでこちらとしては予定どおりだ。
「なら……教師を勧誘するのはいいか?」
「お前俺らが入ったのにまだ足りねえの?」
「足りることがあるか! 市民権を得たいと言ってるだろう。鰤大根とか鶏大根、豚バラ大根と並ぶ中に鮭大根を追加させたいんだから会員を増やさないと意味がない。お前は布教するために入ったんじゃないのか!?」
 めっちゃ喋るなこいつ。
 喋るし元気だ。鮭大根のことになると人が変わるのは仕様なのか。先程のようにふにゃふにゃの笑顔でも見せていれば可愛げがあるというのに、今は眉を釣り上げて布教のための方法を力説している。
 布教するために入ったかと問われればそれはノーだ。鮭大根が世の中に浸透しようがどうしようが宇髄にはどうでもよかったりする。ただ、鮭大根が絡むと冨岡がえらく喜ぶのでそれを見たくて入会しただけに過ぎない。たぶん会員は全員そうだ。ああ、悲鳴嶼は最初は純粋に広めたかったのだったと思い出した。
「今まで会員はいなかったんですよね。それなら今いる人たちで一先ず味を楽しむのもありだと思うんです。こうして集まって食べたりするのも布教活動の一環と思えますし……人が増えると場所も考えなくてはならないし。私は五人でも楽しいんですけど、どうでしょう。まずは少人数から親睦を深めつつ、鮭大根に舌鼓を打つのは」
「………、……確かに……」
 ちょろ。
 何だこいつ。胡蝶の言いくるめにすぐ説得されやがった。こんな性格がよく今まで認知されなかったものだ。どうやってばれずに済んでいたのか不思議で仕方なかったが、最近まで学校に鮭大根を持ってこなかったのかもしれない。
「それに冨岡先生は名誉会長ですし、布教なら私たちができますよ。食べる人うまく増やしてみせます」
 生徒の大半が即座に頷くだろう笑みを浮かべた胡蝶だったが、見ていた冨岡は顎に手を当てて考え込み始めた。堅物であることは有名だが、更に鮭大根のことで頭がいっぱいのため胡蝶の笑顔は冨岡に効いていない。本当に男かこいつ。いや、簡単に靡かれるのもつまらないが。
「……確かに胡蝶先生に任せれば一番良いと思う」
「あら」
「何だよそれ」
 聞き捨てならないことを言い出した冨岡に胡蝶も驚いているが、促してやると話を続けた。
「存在を利用すれば間違いなく広まる。生徒からの人気は宇髄よりも上だ」
「存在」
「お前意外と打算的に考えやがるな」
「そして結構強か……」
「鮭大根を布教するためなら何でも使う」
 目が本気だ。
 胡蝶を利用などという言葉を聞いたら一体どれだけの生徒からヘイトを買うか。職員室からも確実に怒りを買うのはわかりきっている。学校で言ったらどうなっていたことやら、と宇髄はひっそり考えた。
 悲鳴嶼が作った鮭大根に舌鼓を打ち、ついでに持ち込んだ酒で宅飲みにも変貌した集まりは、終電間際にようやく解散の運びとなった。終電が早い路線を使っている冨岡と煉獄を見送り、その場に残る二人へ宇髄は独り言のように呟いた。
「たぶん誰もが思ったと思うが。……人気にあやかって広めるなら、あいつが自分でやってもまあまあいいとこ行くんだよな……」
「それを止めたのが我々だ……」
「確かに。ま、一先ず俺らだけで納得したみたいだし、煉獄が止めてた理由もわかったし」
「可愛かったわあ。確かに見られたら困るわねえ」
 何せ冨岡の会員増加の目論見を止めることに成功したわけで、更に入会の時以上のゆるゆる顔を見られたわけで、試験は大成功を納めたのである。まあ、悲鳴嶼と冨岡の姉が作った鮭大根が同じ表情を引き出したかは、煉獄にしかわからないのだが。