異端者たち 十六

「機嫌悪ぅ。なんだよ」
 むっつりとした無愛想はいつものことだが、醸される空気はやけに不機嫌だ。たいそう珍しい光景である。
「炭治郎はいつ戻るんだ」
「あ? そういや刀鍛冶の里に行ったんだっけか。刀受け取ったら戻るだろ」
「四日経つのに戻ってこない」
「お前ね……」
 過保護爆発してない? と問いかけてみても無視である。不機嫌顔のまま顎に手を当ててそわそわと彷徨うろついているが、遊郭の惨状を見て思うところでもあったのだろうか。引退したから俺の心配はもうしねえんかい、と恨みがましく宇髄は内心で毒づいたが、そんな子供のような心情を口にするわけもなく、溜息を吐き出しつつ答えてやることにした。
「あそこは湯治も兼ねてるからな。まだ本調子じゃねえんなら療養してくることもある」
「湯治?」
「そ、効能のある温泉があるわけよ。隠れ里じゃなけりゃ入り浸ってたなあ、出てくる飯も悪くねえし」
 もちろん宿ではなく鍛冶師の里なのだからどちらも本業ではないのだが、温泉好きにはなかなか刺さる場所なのである。隠されている故に鬼殺隊当主の了承を得なければ訪れることはできないので、足を踏み入れたことのない隊士たちも多い。
「そうなのか」
 療養を兼ねていることがわかると冨岡の機嫌は治ったようだ。なんでだ。
「なんなんだよ」
「………。蝶屋敷の……きよからの密告があった」
 蝶屋敷にいる三人娘のうちのひとりだったと記憶しているが、全員似たような顔をしていて特徴を言われてもどれがどれだかわからなかった。
「高熱が出たまま訓練していたと」
「熱?」
 胡蝶に報告しようにも言わないでくれと懇願されてしまい困り果てたものの、ならばと胡蝶ではない冨岡にこっそり伝えることにしたのだとか。
「調子が良い……ねえ」
 体温計は三十八度を示していたと聞いたらしい。それほどの高熱は隊士であろうと身体に支障が出ておかしくないが、炭治郎自身は不調どころか好調だと言っていたという。
 宇髄の継子だった炭治郎の階級は未だ柱に届かないままだ。十二鬼月との遭遇は群を抜いて多いが、討伐数自体が足りていないのである。駆け出しのうちから複数回十二鬼月に遭遇ってお前……と言いたくもなるが、狙って追手を放たれているのだからそうもなる。とにかく、そんなわけで今も日々泥臭く柱への道を進んでいる。ままならぬ焦りでも感じているのかなんなのか、とにかく無茶をすることが一番の道だとでも思っていそうだ。
 こうなると大人しく療養だけしているとは思えなかった。むしろ刀鍛冶の里でも鍛錬していそうな気がひしひしとしている。
 むっつりそわそわしている冨岡を見下ろし、宇髄は再び溜息を吐いた。
「行きてえの?」
「場所を知らない」
「知ってたらビビるわ。はああ、もう……仕方ねえ。お館様にお伺いしてやるよ」
 むっつりしていた表情がぱあと明るくなった。むしろ宇髄の言葉を待っていたとでも言いたげな変わり身で、絆されきっている自覚のある宇髄は三度目の溜息を吐き出す羽目になった。
 そうして待った数日のちの返答が、まさか救援要請となるとは思いもしていなかったわけだが。

*

 焦っていた。壺から出てきた化物が刃を里の子供に向けたからだ。
 小鉄は時透よりも小さく、何もできない弱い子供だ。怪我をして痛いと喚き、血を見て慄くただの子供だった。
 水に閉じ込められた時透には、すでにそこから這い出す力はなくなっていた。せっかく助けた命を無駄にするなと、早く逃げろと伝えたいのに伝わらない。魚が再び命を狙って刃を振りかぶる。そこにある命が散らされてしまう。時透が動けない目の前で。
 けれど鳩尾を狙ってきた刃は、頭上から飛び降りてきた何かに遮られた。小鉄は尻餅をついて転がったけれど、それ以上の怪我をすることはなかった。
 人のかたちをした背中が時透の眼前にあった。
――誰だ?
 そう疑問に思うと同時にこちらを振り向いた蒼が時透の目とかち合い、水の鉢へと触れる。容易く鉢は破壊された。水ごと投げ出された身体がいうことをきかず、時透は思うままに咳き込んだ。肺に水が入って苦しい。
「平気か」
 静かな声が問いかけてくる。平気なわけないだろうと言い返したかったけれど、咳き込むことでしか返事ができなかった。震える手で針を抜いていると、飛びかかってくる魚を水の槍が串刺しにした。
「肺に水が入ったか」
 どうにか咳を収めて身体を持ち上げようとしたら、時透の周りを水が囲み始めていた。近くで尻餅をついていた小鉄の周りにも水が膜を張っていた。それに意識を取られていたら、時透の身体は転がされて横向きに寝かされてしまった。
「なに……」
「毒も食らったんだろう。血鬼止めを使う」
 言いながら隊服をくつろげていく。まるで医者の応急処置のようだった。
 血鬼止めってなんだろうな。隠すつもりもないのかもしれないが、眼前の相手はまごうことなく鬼だ。どうして鬼が時透を助けようとするのかと不思議で仕方なかったけれど、そうだった。
 敬愛する産屋敷が、彼を本部に連れてきていたのを思い出した。
 協力者だと。人を喰わない鬼なのだと産屋敷は言い聞かせていた。柱の一人が彼を庇うように立っていたのを見たのだった。
 このひとは鬼だ。なのに鬼殺隊に協力する、時透を助けようとする妙な鬼だった。周囲を隔てる水を見ていると落ち着きを取り戻していき、水の膜で内部の人間を守ろうとしているのだと気がついた。同じ水を扱うのにずいぶんと使い途が違うではないか。どうして協力なんてしているのだろうとも思ったけれど、今の時透にはどうでもいいことだ。
「おい、」
 先ほど水に閉じ込めた異形の鬼はまだ生きている。横向きにさせられていた身体を持ち上げた時透は、あばら家に向かったはずの鬼を追いかけるために立ち上がった。
「行かないと」
 殺さなければいけないのだ。
 兄を奪った鬼を本能で殺したように、人間の脅威となる鬼は根絶やしにしなければ、そこにある命はずっと散らされ続ける。
 消耗しているはずの身体が動き出し、心拍が上がり体温が上がるのを感じた。先ほどまでの苦しさが嘘のように身体が軽くて、時透は思うままに地面を蹴った。

「時透さん……」
 名を呟いた子供の手当をしながら義勇は思考を巡らせていた。霞柱の顔に浮かび上がった痣らしきもの。
 鬼の紋様と似ている。
 浮かび上がらせれば義勇にも出る紋様だ。それがなぜ人間の身体に浮かぶのだろうか。それに。
 炭治郎の額のものにも似ていた。
 かつてはただの古傷に見えたものが、今や濃く存在感を増してきているもの。しかも先ほどまで苦しんでいたというのに、まるで怪我などなかったかのように軽やかな動きを見せた。
 調子が良いと言い張ったという炭治郎もあのような状態だったのかもしれない。鬼ではない人の身であるはずの彼らの身体には不可解なことが起こっている。
「鋼鐵塚さんがあそこに、」
「向こうへ行ってろ」
 上弦相手では無意味となるだろうけれど、少しでも障壁となるよう結界を張り巡らせて義勇はあばら家へ足を向けた。
 しかし、入口からこっそりと覗き込んでみると、ずっと刀を研ぎ続けている男がいた。視線を巡らせると壁際に倒れた男がもうひとり。見つけたと同時に大蛸が飛び出してきたので巻き込むまいと義勇は壁際の男の前に出たが、呆気なく捕まり締め上げられてしまった。
「やはり猗窩座殿が見た逃れ者めか」
 殺してしまえば問題などなくなるとでもいうように、胴よりも太い蛸足が義勇と霞柱を締め殺そうと蠢いている。鬼である義勇ならば損傷したところで殺されはしないが、体感がどうであろうとすでに命の危険に晒された霞柱は違う。柱を絞め殺されてはたまらない。血鬼術を発動させようとしたが、それよりも速く大蛸が切り刻まれた。
「変なひとだねあなたは」
刻まれた蛸足が重みに耐えかねて地面へと落下するのに紛れて、義勇と霞柱も着地した。あばら家の壁際で呻いていた男の名を呼び、霞柱が刀の礼を告げる。振れば義勇の頸など簡単に落とせるだろうと思えるほどに刃は鋭い。
「怪我人をよろしく」
 会話ついでに振るった刀は、義勇ではなく上弦の鬼の頸へと到達した。煽るかのように次は斬ると宣言した少年は、まるで怪我などなかったかのように剣を振るった。
「うう……」
 あばら家近くで倒れていた男ふたりに駆け寄ると、ひとりは未だに刀を研ぎ続けていた。もはや執念を感じる。こちらが勝手に触れて気に止めないならいいのだが。
 手当をしている最中も上弦との様子を探ってはいたが、義勇が助太刀に入る余地はどこにもなかった。柱は手負いの少年、相手は上弦の伍だ。だというのに、圧倒してすらいたのである。
 あの顔の痣が出てから。普段の戦いぶりを義勇は知らないが、水の鉢に閉じ込められていたところを思うに、少なくとも手こずってはいたはずだった。上弦の伍が舐めていたとしても霞柱に隙がない。負ける気配が見つからないのだ。
――調子が良いからと、黙っててくれと言われて……。
 鬼との問答が聞こえてくる。“調子が良い”のだと少年が言う。痣が出ると調子が良くなる。心拍が異常に速く、高熱を発しているのを義勇は感じ取った。
「あれ以外の鬼は?」
「いえ、私も詳しくは……」
「そうか。……この人は……手を止めないのか」
「鋼鐵塚さんなんで」
 怯えていた子供が平静を取り戻し、義勇の問いかけに一言返した。よくわからないが、そういうものとして見られている人物らしい。
「そうか」
「いや、そうかじゃないんですけどね」
「転がされるわ攻撃されるわだし、今更何しても文句言わないと思いますよ」
 手当するのに怒られるのも納得し難いが、まあ、特に鬼相手では触られたくないこともあるだろう。しかし知己らしいふたりがいいと言うのならと義勇は腹を括った。
「おおっ……」
 霞に撒かれて頸が飛ぶ。
 脈拍が異常に速く、体温は高熱。身体能力が爆発的に向上し、体内の異変が痣となって浮き出るかのように体表へと表れる。
 上弦は柱三人に匹敵する強さだといわれていたようだが、上弦の鬼を少年一人で討伐するとは。目の前で見ていても俄には信じられず、目を擦ってしまいたくなるほどだ。
 しかし、呆けている場合ではない。手当を終えた義勇は今なら血が採れると気づき、さっさと上弦の伍の頸の背後をまわって血を採取した。義勇を殺し損ねていることは鬼舞辻にも伝わっているだろうが、積極的に追手が放たれていないのなら問題はない。炭治郎のほうがよほど危険だ。
 アンプルを懐に仕舞いながら、ぐらりと傾いた霞柱の腕を掴んで身体を支えた。毒は珠世特製の血鬼止めを使用して巡りを止めているが、蓄積した損傷はなくなったわけではない。顔の痣は消えていた。
「……えーと……名前なんだっけ。あなたの」
「冨岡義勇」
「そう、冨岡さん。助かったよ」
「礼なら血鬼止めを開発したひとに」
「いや介抱のことなんだけど……じゃあそのひとにも今度言うよ……」
 会う予定があるかどうかはわからないが、礼は珠世にこそ伝えられるべき言葉である。
「行かないと、炭治郎たちのところ……柱は来たんだろうか……」
 行ってもらわねばならないとは重々思い知らされたが、少しでも休んでからだ。そもそもすでに満身創痍で動くのもままならないのだから行こうにも行けないはずだ。肩を押さえつけた義勇はとりあえず地面へと寝かせた。
「血鬼止めは毒を追い出すものじゃない」
 巡りを抑えて促進させないためのものだ。毒が排出されたわけでもないし、肺の水はそのままである。
「……苦しいかもしれないが、試すか。体内の洗浄」
「洗浄……」
 鼻や口、傷口でもいいが、体内に水を侵入させて毒や肺の水を洗い流して排出する。鬼殺隊に協力するようになってから、己は禰豆子のように血鬼術を燃やしてやることもできないし、手当だけではどうにもならないことをどうにかできないものかと頭を悩ませていた。人に対してやったことはなく、提案したのも今が初めてだが。
「へえ。……よろしく」
 肝が据わっていなければ柱など務まらないのだろうが、義勇が彼の歳の頃に即断できたとは思えず感心するばかりだった。
「……あのひと鬼なんですよね?」
「そうだと思いますけどね……」
 なんて会話がふたりの背後でされていたものの、それどころではなかったので誰も突っ込むことはしなかった。

「恋柱到着……上弦ノ肆ト炭治郎タチガ戦ッテオル……負傷者ハ……増エタンジャッタカノォ……」
「増エテナイワヨ爺サン! 上弦ノ伍ノ討伐後ニ壺ノ魚ハ消滅シテルッテノ!」
「俺は負傷者を探してくる」
「頼みます!」
 傷と毒と洗浄の苦痛が積み重なった霞柱はさすがに耐えきれなかったのか気絶してしまった。上弦を単独撃破した時点で化物級だと思うが、そこはさすがに人間味があるようだ。
 炭治郎たちのことが心配だが、この場の彼らのことも置いていくのに不安はある。とはいえ上弦の伍が消えてからの負傷者は増えていないと言うし、そちらばかりに気を取られて死にかけている人間が間に合わなくなるわけにはいかない。
 戦闘で役に立たないとはいえ、怪我を気にせず動けるのは義勇だけだ。信じて意識のない霞柱を鍛冶師と子供のふたりに任せ、上弦は炭治郎たちと柱に任せて倒してもらうしかない。鬼殺隊特製の糸を使って修復してもらった外套は、以前よりも陽を遮ってくれている。陽が昇れば行動が制限されるとはいえ、ある程度の無理がきく。結界から出た義勇は気配のある方向へと駆け出した。

 そうして里を巡ってみれば、息のある重傷者は一先ず運ばれて応急手当をされていたので義勇の仕事はさほど多くなかった。引き続き負傷者は避難してもらい、義勇は炭治郎たちを探すことにした。そして探している最中に大きなトカゲを見た。上弦の肆らしき子供を見つけ、それと対峙する隊士も発見した。
 柱だ。寛三郎は恋柱と言っていたことを思い出した。ひとりでトカゲと渡り合う女隊士の鎖骨部分に霞柱と似た痣が出ているのを確認し、心音と体温の異常さを感じ取った。あれほど身体を酷使して平気でいられるとは思えないが、そうでもしなければ渡り合えないのならば義勇とてそうするだろう。攻撃していた大トカゲの奥で、上弦の肆が何かをしようとしていた。
 だからせめて盾になるよう水の膜を張った。上弦の鬼の攻撃を完全に防げるような強さはないが、数秒稼げば柱ならどうにかしてくれるだろう。音波を吹っ飛ばされた義勇は多少食らってしまったが、驚いたようにこちらへ目を向けた柱とともに鬼も義勇へ意識を向けた。
 小賢しい裏切り者だの鬼舞辻の邪魔をする蝿だのと罵られたが、忌々しいと思うなら捨て置いてくれればいいのにと心中で文句を言った。忌々しく感じるほどに邪魔なのだろうと思うと、まあ、さもありなんと義勇も思う。もはや姿を見られたのは三体目であるし。
 蝿退治でもしようと思ったか、鬼はトカゲを義勇へけしかけた。水の膜では破られて終わり、槍で地面に縫いつけられるかと考えた直後、ずばんとトカゲを斬る背中が眼前にあった。えっと驚いた義勇に柱は叫ぶ。
「冨岡さんだったわよね! 炭治郎くんたちが本体を探してるの、加勢してあげて!」
 こちらは大丈夫だから。本体を斬るまで絶対に足止めしてみせるから。そう啖呵を切って再びトカゲへ向かっていった柱の背中を茫然と見ていた義勇は、はっと気がついてフードを被り直し、小さく頼むと告げて炭治郎たちの元へと走った。

 気配を辿り見つけた先で、上弦の肆は偽物の頸を落としてからも人を追った。陽が昇ってもなおしぶとく生きている。陽光に晒された禰豆子が短い悲鳴を上げた。顔の大半に火傷を負い、痛みに呻いて腕で頭を守ろうとする。そんなことは鬼には無意味だというのに、本能が頭を隠そうとしていた。
 崖にいた隊士が降りようとしていたのを見て義勇は飛び降り、驚いたようにこちらを見ている隊士を無視して禰豆子へ駆け寄った。
 来ては駄目だと普段の炭治郎ならば義勇へ言っていたかもしれない。けれど妹の危機に誰か助けてほしかったのだろう、満身創痍で泣きそうな炭治郎と目が合ったけれど、禰豆子が蹴り上げるほうが速かった。
 伸ばした手は外套に覆われていない箇所だから、当然義勇の皮膚も焼ける。鬼殺隊と関わりを持って何度目だろうと思いつつ、それが仲間を持った証でもあると納得した。
 外套があるぶん義勇のほうが陽光を隠せる範囲が広い。陽避け代わりに覆い被さったけれど、陽に晒された禰豆子の腕が修復していくのを目の当たりにして言葉を失った。
――近いうちに禰豆子さんは、
 恩師の声が脳裏に過る。ふらりと立ち上がった禰豆子の顔は綺麗に火傷が治っており、身体は陽に晒されても崩れることはなかった。見上げた禰豆子の顔はあどけないまま目を丸くしていて、自分でも何が起こっているのかわからないような顔だった。
 疑問符を浮かべたような顔をしていながら、脱げかけていた被りを掴んで義勇の頭を深く隠そうとする。義勇の背後から聞こえてきていた炭治郎の嗚咽が止まった。
――太陽を克服するでしょう。
 狼狽えて吃りながらも大丈夫かと問いかけながら禰豆子の無事を確認している。ようやく状況を飲み込めたのか、炭治郎は大泣きしながら妹を抱きしめた。
 よかった、本当に。灰になって消えたりしたら、義勇は悔やんでも悔やみきれない。安堵の溜息を吐き出したところで、外套の上からじりじりと皮膚を焼く陽光に顔を顰めた。しかし気にしている隙はない。怪我人がここにもいるからだ。義勇へ泣き顔を向けた瞬間、炭治郎の身体は崩れ落ちた。兄の身体を禰豆子が抱えて背負う。
 霞柱たちもこちらへ近寄ってきた。禰豆子が拙い言葉で皆を日陰へ誘導してくれたので、義勇も助かったとついていこうとしたのだが、少し前に見たひとりが見当たらない。
「恋柱を連れてくる」
 義勇が見たトカゲの子供鬼は分身体だったようだが、だというのに相当な強さだった相手だ。かなりの怪我を負っただろうと予想したが、こちらへ駆けてくる足音に顔を上げた。
「みんなああ!」
 子供のように大きな声を上げて子供のように、禰豆子に背負われていた炭治郎や霞柱、ずいぶんと背の高い隊士すら巻き込んで抱きしめ恋柱は泣いた。泣き喚いた。余力があるように見えても怪我をして疲弊している。それでも生きていることに泣いて喜んでいた。
「みんなが倒してくれなかったらもう駄目だったよぉ! あっ、冨岡さん! 冨岡さんもありがとー!」
 彼女に対して役に立てたとは思わないので首を傾げてしまったが、感極まって泣き止まない恋柱にはこちらこそ礼を告げなければならないだろう。あの会議の場で一度会っただけの義勇を背に庇い、鬼の攻撃を防いでくれたのだ。あんな攻撃は放っておけば治るというのに。
「……こちらこそありがとう」
「えっ? 私何かしたかしら?」
 こくりと頷けば少し悩む素振りはしたものの、涙を拭いつつ朗らかな笑みを見せてくれた。