介抱の代償

 宇髄の通う大学には部活が多く存在する。
 サークルと名のつくものは運動系であろうと出会いを目的としたものが多く、部とつくものは中高のように本人の上達や勝利を目的としたものだった。
 宇髄はことさら団体行動に興味がなく、元々困ってもいない出会いなどにわざわざ時間を費やすつもりもなかった。昼休みに空いているコートがあれば、昨日はバレー、今日はバスケといった具合に、適当に集まった連中と適度に体を動かすくらいで満足していた。
 フェンスの向こう側を歩く学生らしき人物を目ざとく見つけ、ボールを追いかけていたうちの一人が近寄っていった。何だ何だと遠目に眺めるが、何だ男か、とつまらなそうに意識を戻した連中はさっさとボールを回し始める。
 気まぐれに興味を惹いた宇髄はフェンスへと近づいた。
「お前ここ通ってたのかよ」
「ああ、学びたい学部があったのでな。不死川先輩もだったか」
「まあなァ」
 ただ昼休みにボールを囲む程度の、友人ともいえぬ間柄の人間ではあるが、そいつがフェンスの向こうの男から先輩と呼ばれている。どうやら中学だか高校だかの知り合いらしいことがわかった。
 宇髄に気づいた二人が視線を寄越し、律儀にも後輩らしき男が煉獄と名乗り挨拶をした。
「おう、俺は宇髄。お前も昼暇なら来いよ。俺ら大概どっかのコートで遊んでるからな」
 適当に声を掛ける。気が向いた奴はこうして集まり、興味のない奴は来ない。どこに居るかもその時にならなければわからないくらいの、かなり曖昧で適当なものだ。きっちりしていそうな男にはやりにくいかも知れないが。
「成程。では見かけたら混ざらせてもらおう!」
 声が大きくはきはきと喋る。聞いていて悪い気にはならない。見た目どおりさっぱり溌剌とした男だ。
「ここ確か剣道部強ェんだろ。入んのかァ?」
「へえ、剣道ってあの面とか着けて木刀振り回すやつだろ。お前強いの?」
「こいつは強ェよ。高校で一番強ェ奴と互角だったしよォ」
「不死川先輩は冨岡先輩を認めてたのか」
「剣道のことわかんねェ俺が周りの評価曲げてまであいつの実力こき下ろすわけねえだろがァ……」
 あの野郎……と唸りだした不死川を見て、強面だが気の良い奴だと思っていた宇髄は目を瞬いた。嫌いな奴っぽいな、と宇髄は考える。
「不死川先輩と仲良くなりたいと言っていたようだが駄目か」
「あいつが俺の神経逆なでしなけりゃな」
 からからと笑う煉獄に、不死川は件の冨岡とやらを思い出したのか舌打ちを一つした。一体どんな奴なのか、不死川とそりが合わない相手を想像してみるが、嫌味でも言いそうな鼻につく奴を思い浮かべてみた。
「何だ何だ。強いから天狗になってるような奴なのか?」
「逆だ。自己評価が低いんだ」
「さんざ腕自慢叩きのめしといて嫌味な奴だよ。強えなら天狗になってるほうがまだ気持ち良いわ」
「ふーん。何かよくわかんねえ奴だな」
 思い浮かべてみたものの、顔も知らない人間の話に大して興味も持てず、宇髄は二人を置いてコートへ戻った。暫くして不死川も戻ってくる。煉獄は本来向かおうとしていたところへ先を急いだようだった。
 知り合いの知り合いという遠い関係の初対面は何の変哲も無く、宇髄にとってよくあることだった。それでもたまにコートに顔を出した煉獄は妙に馬が合い、昼休みの運動仲間だけではなく、見かけたら声を掛けて講義以外は行動を共にするという、俗にいう友人の関係へと変わっていった。

 食堂のテーブルを一つ陣取り、宇髄と不死川は顔を突き合わせて昼食を取っていた。入り口から見知った顔が見え、その後ろにいる華やかな女子を見て宇髄はお、と目を煌めかせた。
「なー、アレ煉獄の彼女? 派手で良いな」
 麺類を啜っていた不死川が後ろを振り向き、仲良く笑い合っている二人を見つけて違うと口にした。
「ありゃあいつの同級生だよ」
「へえ。前にゼミの奴らが言ってたけどよ、お前の母校って可愛い子多かったってまじ? どこも似たようなもんだと思うんだけどよ」
「俺はあんま気にしたことねーなァ」
「まじかよお前枯れてんなあ」
「枯れてねえわ!」
 大声で宣言するような言葉ではないが、不死川にとって心外だったようだ。しばらくすると隣のテーブルにどんとトレーが乗せられた。ふと隣に目をやると、予想通りの煉獄と、その向かいに華やかな女子が会釈をして微笑んでいた。名前は甘露寺というらしい。
 どうも、と声を掛けながらテーブルの料理をまじまじと眺めた。煉獄がよく食べるのは知っていたが、彼女が持って来たトレーにも凡そ一人分とは思えない量が運ばれていた。
「……何人分?」
「あ、あはは! 私ったら食べる量が多くて……恥ずかしいわ」
 照れてはにかむ姿は可憐だが、如何せん目の前にあるトレーに目が行ってしまう。煉獄と不死川は気にした様子もないので、これがいつも通りなのだろう。
「煉獄さんもよく食べるから、一緒に食べたらあまり目立たないかと思ってお願いしたんです」
「いや逆に目立ってるけどな」
「ええっ!」
 対策を立てたはずが全くの無意味、それどころか更に視線を奪っているのだ。煉獄の料理を褒める声が大きいせいもあるだろう。目立ちたくないなら逆効果である。
「誰が見てようとどうでもいいだろよォ」
「女子はそういうの気にするんだよ。じろじろ見られたら誰だって気分悪いだろ?」
「成程な! 俺は気にしたことがなかったが」
 豪胆そうだもんな。
 凄いわ、ときらきらした目で煉獄を見つめる甘露寺は、恋する視線だと言われても納得してしまうほど熱いものだ。これが付き合ってないのは不思議だ。まだ、という可能性もあるが。
 目立つの何のと言いながら、甘露寺は不躾に眺めてくる視線に紛れた男どもの含みのある視線には気づいていないようだった。ついでにいえばある種の女子の視線にも。
 宇髄は自分の見た目が良いことを自覚している。何なら彼女は途切れたこともない。席に座る男二人も己ほどではないが悪くないことを認めていた。一部の界隈からは女一人を囲む会にでも見えているのだろう。勿論、下衆の勘繰りだが。会ったばっかだっつうの。
 全く面倒なことだ。少し気の合いそうな連中といるだけで宇髄の言動は下世話な噂とともに見られていることがよくあった。だから深く関わらず適当な関わりを持っていたのだが。
 だがまあ、不死川も煉獄も、良くも悪くも周りの目をほとんど気にしない。甘露寺だって恥ずかしいと言いながら食事量を減らさないあたり、自分は悪いことをしていないことをわかっている。うん、きっと甘露寺とも仲良くやれるだろう。今までならば思いもしなかったことを宇髄は考えた。

*

 大学の学祭は高校よりも自由度が高い。ゼミでの露店やサークルなどの申請を含むとかなりの量になる。制限も多い高校に比べると、露店の種類も豊富にある。
 宇髄が受けるゼミは楽そうなフリーマーケット形式を採用した。
 退屈な店番も終わり、適当にうろついていると複数人の男女グループが騒いでいるのを見かけた。待ち合わせて校内を歩くカップル連中は普段も見かけることはあるが、学祭ともなると普段より浮かれた連中が多く、これを機にナンパの数も跳ね上がる。
 盛ってんねえ、と他人事として宇髄は一つのグループをしげしげと眺める。どこの学部かはたまた外部からの客か、二人いた女子はどちらも平均より可愛かった。華やかな美人が一人、クールな美人が一人。
 男連中が何か話しかけているのが随分必死に見えて、宇髄はううん、と眉を顰めた。女子二人が顔を見合わせた時、笑っていたほうが困惑したような表情をしたからだ。
 直後、軽やかにその場に走って来たのは宇髄の知っている者だった。三つ年下の派手な女子。よく昼飯をともにする甘露寺だ。
 やっぱりナンパか。
 甘露寺は他校の友達二人と学祭をまわるのだと楽しそうに笑っていた。煉獄と不死川、宇髄にも後ほど合流しようと持ち掛けていたことを思い出す。来るのは二人と言っていたのだから、周りにいる男連中は想定外の奴らだろう。よく観察すると女子側の表情がやはり芳しくないのだ。
 髪を一つにまとめた女子の手首を掴み、無理やり連れていきそうな男の様子に宇髄は思わず駆け寄った。この場にやって来た甘露寺も、合流に頷いた煉獄や不死川も、宇髄のお気に入りの知り合いである。その友達らしき人間がよろしくない目に合うのは避けたい。
「ちょっと待てお前ら!」
 女子の手首を掴む男の腕を振りほどこうとした、全くの善意からの行動だった。向こうが宇髄に気づく距離へ近づいた時。
 己の顔に思い切り衝撃が走り、男連中を巻き込んで地面へダイブした。
「きゃー! 宇髄さん!」
 何が起きたか理解できなかった。疑問符を抱えながら、衝撃の走った左の頬へそっと手を添える。ぬるりとした感触を鼻孔あたりに感じた。指で擦ってみると、赤い液体が付着した。鼻血だ。この歳になって出すとは思ってもみなかった。
 見上げると手首を掴まれていたはずの女子が、握った拳を振り抜いた体勢のまま驚いた表情を見せていた。
「宇髄さん! 大丈夫!?」
 甘露寺が女子の背後から宇髄の心配をしていた。あわあわと泣きそうなほど慌てている姿を見て宇髄は冷静になった。頬が尋常ではなく痛い。
「おい、お前ら。あんま変なことすると殴られるぞ。俺みたいに」
 何もしてないのに。何なら助け舟を出そうとしたのだ。顔に拳がヒットしたのは偶然だろうとは思うが、何せその一発が驚くほど痛い。脳が揺れた気がした。
 ばたばたと逃げていった連中を見送って、宇髄は我慢できずに痛いと口にした。
「す、すまない……。手首を掴んだ男に軽く当てるつもりだった」
 殴る気満々のように見えた気がしたのだが、彼女からすれば違うのだろう。まあそれはいい。向こうがしつこかったのだろうし。
 宇髄の目の前へしゃがみ込み、鞄から取り出したハンカチを頬に当てる。ついでにティッシュも出て来て鼻へと詰められた。狼狽しているせいか力が強い。
 だが反省しているのか、女子は大層困った顔をしていた。至近距離で覗き込む顔を見て、見れば見るほど美人だな、と宇髄はしげしげと観察しながら頭の隅で考える。
「背中打ったりとかはしてない? 豪快に倒れ込んだでしょう」
「あー、平気平気。頬より痛いとこはねえわ」
「すまない……」
 往来で座り込むのも邪魔になると、宇髄は女子三人を生垣の側へ移動するよう促した。尻餅をついている宇髄の腕を肩に担ぎ、殴った女子が支えようと立ち上がる。良い匂いがした。宇髄の知る香水ばかりの匂いではない。他の二人も手伝うよう体を支えた。
 美人の女子三人に囲まれて介抱されるのはなかなか気分が良い。代償は過去最高に痛いものだったが。
 近くの露店で貰ったビニール袋の氷嚢をハンカチで巻き、痛みの引かない頬へ当てられた。生垣に腰を下ろした宇髄の前で、膝立ちの女子が顔を覗き込む。通常なら割と喜ばしいシチュエーションではなかろうか。何度も言うが痛みさえなければ。
「……何をしてるんだ?」
 普段よく聞く声が聞こえ、宇髄が視線を上げると少し硬い表情の煉獄が近寄って来ていた。後ろに何事かと驚いて目を剥いた不死川がいる。
「煉獄さん、不死川さん」
「何があったってんだァ?」
 不死川の言葉を無視して氷嚢を当て続ける女子と、困ったような視線を交わし合う女子二人。まさか、と呟いた不死川が宇髄の前にいる女子へ視線を動かした。
「違うのよ不死川くん。これは事故なの。男の人に腕を掴まれちゃって、割って入ってくれた宇髄さんを殴っちゃったのよ」
「男の人とは? 掴まれたのは胡蝶先輩か?」
「違うわ、あのね」
 宇髄を殴った女子はようやく顔を動かしたが、煉獄の質問には答えず居心地が悪そうに視線を逸らした。
「蜜璃ちゃんを待ってた時、男の子たちが親切に声を掛けてくれたんだけど、断ってもなかなか帰ってくれなくて困ってたのよ」
「私が合流したら、さっきの人たちが凄く楽しそうに急に騒がしくなったの。その後冨岡さんの腕を掴んで、宇髄さんが駆け寄ってきて……」
「……振りほどこうとしたら彼の顔に拳が当たってしまった」
 当たったなどという生易しいものではなかったが、わざわざ訂正するのも可哀想だ。概ね三人の言った通りである。彼女らの言い分に少々疑問点は残るが。
「成程。それは災難だったな」
 煉獄に肩を叩かれ宇髄は視線を向けた。同情の視線のなかに何だか違うものが見えた気がして、宇髄ははて、と不思議に思う。
「学祭はお客さんが来るからナンパしやすいんだよ。さっきの以外にもあったんじゃねえか?」
 校内の人間だと出会い目的のサークルなんてものは噂が流れて人が集まらなかったりすることもある。何も知らない外部の人間と知り合うには、学祭は恰好の機会だったりするのだ。
「……ナンパ?」
 きょとんとする、という言葉がしっくり来る表情を女子三人が見せた。溜息を吐いて髪をぐしゃりと掻く不死川と、笑顔のまま固まってしまった煉獄がいた。
「……あら! さっきのってしのぶがよく言うナンパだったの? しのぶと一緒の時にしかないんだと思ってたわ」
「案内係か何かかと」
「凄いわ二人とも。ナンパされるなんて」
 あんぐりと口を開けてしまったのは仕方のないことだろうと思う。ナンパというものがあることは把握しているようだが、映画のなかの話とでも思っていそうな他人事扱いだ。そんな奴いる? 悲しいかな現実には目の前に三人も存在するようだ。宇髄は頭を抱えた。
「保護者は誰だ? 不死川か?」
「俺になすりつけんなァ! 冨岡は煉獄が言い含めとけよ!」
「うーん。お姉さんがお姉さんだからなあ……」
 そういえば、と顔を見合わせる三人の女子を眺め、色々あってまだ名前を聞いていなかったことに気がついた。聞き覚えのある名に違和感を覚えつつ、口にした不死川を見上げる。そういえば甘露寺も呼んでいた気がする。そう、冨岡だ。
「お前今冨岡って言った? 冨岡ってアレだろ、お前が目の敵にしてる野郎」
「おお、違いねえな」
 宇髄のそばで聞いていた女子が心外そうに不死川を見上げる。何だその顔は、と普段の悪人面が更に凄みを増してメンチを切っている。相手は女子なのに。
「……えっ、冨岡ってお前? 男じゃなかったのかよ?」
「誰も男とは言ってねえだろよォ」
「そうだっけ? ……いや、お前が野郎とか言うから。えーそうか、お前が冨岡かあ。剣道めっちゃ強えっていう。あー成程ね。……お前さ、俺と付き合う気ない?」
「はあ!?」
 何故不死川が驚くのか。散々嫌っているような印象だったのだが、小学生男子によくある、好きだから虐めたい理論の持ち主かと邪推する。単純に只管驚いただけかも知れないが。まあ今は野郎のことはどうでもいい。
「いやだって俺、顔面に拳決めてくる女初めてだし。面白すぎるだろ。どうしてくれんだ世紀の男前の顔を」
「痛い目見てんのに物好きすぎだろ……」
 足の間に膝立ちで収まっていた冨岡は、後退りして逃げ出しそうな素振りを見せ始めた。話が終わるまでは逃がすつもりはなく、とりあえず氷嚢を押さえる手を捕まえておく。
「む、無理だ」
「えー何で? あ、彼氏いんの?」
 ナンパも他人事と考えるような人間だ。少々不安だったが付き合うという意味はきちんと伝わったようだった。照れているのか目元を赤くして控えめに頷いた。顔を背けた拍子に真っ赤に染まる耳が見える。彼氏がいると伝えるだけでこの照れようか。以前までの宇髄の周りにはいなかったタイプの人間だ。
「宇髄先輩には悪いが!」
「うお、びっくりした!」
 思わずまじまじと見つめようとした時、宇髄と冨岡の間に見知った顔——煉獄の顔がにゅっと視界に飛び込んで来て思わず仰け反った。口元は笑っているが目が何か怖い。
「そこまでだ。これ以上は看過しかねる」
 腕を引っ張って冨岡を立ち上がらせ、煉獄は一つ息を吐いて宇髄へと向き直った。目だったり表情だったりが、普段と少々違う気がしていた。先程からの違和感の正体は、恐らく冨岡が関連している。
「……はーん。彼氏はお前か」
 煉獄は満面に笑みを貼り付けているにも関わらず、妙に迫力がある。冨岡が離れた拍子に落としかけた氷嚢を頬へ押さえ直し、宇髄はにやつきながら軽い調子で口にした。
「そういうのは早く言えよな。人のモン奪う趣味はねえからな、大人しく引き下がりますよ。ったく、殴られるわ振られるわで踏んだり蹴ったりじゃねーか」
「災難過ぎたなァ。同情するぜ、冨岡なんかと関わったばっかりに」
 心底可哀想なものを見る目で宇髄を眺める不死川へ乾いた笑いを返しつつ、宇髄は年寄りのような掛け声を口にして腰を上げた。
 冨岡を背中へ隠しつつ笑顔で威嚇する煉獄を眺める。暴力女の物珍しさに思わず口説こうとしたが、これは行く末を見守るほうが面白そうだと宇髄は考えを改めた。
 ナンパすら他人事と感じている女子たち三人のなかでは、滅法強いので腕力でどうにかしていきそうだが、箱入りかと疑えるほどの冨岡に煉獄が振り回されて苦労するのではないかと予想する。他の二人も同様に強い可能性は無きにしもあらずではあるが、現時点ではわからないので忘れておこう。宇髄の見立てでは付き合っているのは煉獄と冨岡のみといったところか。まあ、この三人の誰と付き合ったところで苦労するのは目に見えたのだが。
「あ、そうか。煉獄と同じくらい強いんだっけ」
「剣道の話か?」
「おう。見た限りじゃ剣道以外も強そうだがな。やっぱ自分と同じくらい強えから好きなの?」
 強くなければ耐えられなさそうだし。宇髄の頬は相変わらずじんじんと痛いままだ。
「……強いからだけじゃない」
 顔を顰めながら頬を染める冨岡に、興味津々に覗き込む二人の女子。どんなに浮世離れした女子でも恋の話は好きなようだ。呆れたように空を見上げた不死川は放置しておく。ふうん、と適当に相槌を打ち、宇髄は続けて口を開く。
「人のモン奪う趣味はねえけど、煉獄と別れたらよろしくな」
「残念ながら宇髄先輩」
「あーもうわかったわかった。ただの社交辞令だよ馬鹿」
 興味を持ったら人のものだった。女の前でこれほど格好のつかない状況など初めてだ。
 冨岡を背中へ隠しつつ笑顔で威嚇する煉獄に、もうちょっと早く知り合ってればなあ、なんて考えたのだった。