アイシールド21を探せ!+α
メイド喫茶と銘打たれた看板を掲げる部室には、ムキムキのむさ苦しい男たちの姿がある。一人やけに女子から可愛いと持て囃されているメイドがいるが、あれが瀬那の言っていた陸だ。目つきは少しきついが確かに可愛かった。
他のアメフト部員は筋骨隆々だったり男臭さが消えていなかったり、ミニスカートが見苦しいほどの出来栄えではあったが、全員もれなく営業スマイルを張り付けて頑張っているようだ。囲まれている陸も一応笑っている。
「炎馬は振り切ってるよなあ……女子は裏方かな?」
給仕をしているのは男ばかり。近くにいた気持ち悪い雲水に問いかけると、瀬那はアメフト部プレゼンツのイベントのために準備中なのだという。何やら大掛かりなイベントのようだった。
「サービスで愛情込めますけど、萌え萌えキュンしてほしい奴います?」
「セナちゃん……って言おうと思ったんだけどいないしな。じゃあ甲斐谷くんで」
「その消極的選択は見せないでほしいですよ。まあセナがいてもやらせませんけど」
陸の瀬那ガードが固い。進なら別にいいのではないのかと思うのだが、それを許すと周りからの要求に際限がなくなるということかもしれない。まあ、そのあたりは二人の時にやってもらえばいいとして。
陸に頼んだハートは桜庭が見ても完璧にやりこなしてくれた。だがやり切った後の一瞬、すっと真顔になるのが少し切ない。役に入りきれないあたり、心底から納得してメイドをしているわけではないのだろうなと桜庭は悟った。水町などノリノリなのに。
「何が変わったんだ?」
「あ、そういう分析は駄目です。やめてください」
疑問符を浮かべながらハートを向けられたカップをしげしげと眺める進を窘め、陸はごゆっくりと告げて次の客を出迎えに行った。
「本当に繁盛してるな。イベントは昼からって話だけど……何すんだろ」
終わるまで会えないのなら進も寂しいかもしれないが、学祭が終わればどうせ会うつもりなのだろうしまあいいか、と桜庭は雑に思い直した。
アメフト関係の顔がちらほらと見え始めた頃、瀬那は緊張しながら人混みに紛れていた。
アメフト部主催イベントの名は、“アイシールド21を探せ!”である。
学内のどこかに潜む瀬那を捕まえ、手首に結ばれたリボンを獲ればギフト券五万円。太っ腹な気もするが、動画の収益が何やら予想より多く、どこかで使おうということになったのである。
勿論瀬那一人で逃げ切るにはあまりに不利なため、イベントのための協力者とともに作戦を立てている。捕まればギフト券贈呈、逃げ切れば瀬那と協力者で山分け、そして食券一週間分が手に入る。そのために必死に計画を立てていた。
放送部の許可を得たアメフト部は学祭中のイベント開催を告げるために放送席で時間を取り、大々的にスタートを告知した。
格好も何もかも見つけてのお楽しみ。別に瀬那の格好に楽しみなどはないのだが、変にメイド服で逃げ切らなければならなくなるよりはよほどましだった。
「ケケケ。糞チビ捕まえりゃそのまま最京所属決定だ」
ぞわ、と背筋に悪寒が走る。比較的近くに聞こえた明らかに聞き覚えのある声と内容に瀬那はそっとその場を離れた。このまま見つかったら確実に最京まで連れていかれる。蛭魔はそういう人だ。さすがに本気で編入なんてことにはならないと思うけれど。
協力者である鈴音から危険人物のリストメールが送られてくる。
蛭魔、阿含、赤羽、大和、いや最京生が多い。皆で来てくれたのは嬉しいが、こうして羅列されるとオールスター過ぎて引く。十文字やまもりたちも来てくれているらしいが、危険と判断はしなかったようだ。
そして武蔵工から武蔵たちも来ている。戸叶と黒木がギフト券に目が眩んでいるという情報だ。峨王がやる気になっていなくてよかった。いや何で峨王も来たのだろう。栗田目当てだろうか。公開練習などもするつもりはないのだが。
雪光も高見を誘って来てくれているらしいが、こちらは瀬那を応援してくれているらしく良心的で安堵した。逃げ切れたら二人にジュースでも渡すことにしよう。
それから。
危険人物とは違うけれど、進と桜庭も顔を出したという話だった。ルールを聞いている間の進に変化は特になかったらしいけれど、蛭魔の先程の一言で進の空気が変わったと桜庭が言ったのだとか。いや、捕まった人の大学に行くというルールではないのだが、大丈夫だろうか。
兎にも角にも始まってしまったイベントは、学内の客含めて全員が敵となるようなものだ。早々に捕まることは避けたい、と瀬那はぐっと拳を握った。
「あっ! セナちゃんだー!」
「ひー! すみませんっ!」
「うわ、凄っ!」
人混みを縫って走り去る。これはこれで練習になるかもしれないけれど、一般人にぶつかって怪我をさせないよう気をつけることのほうが大変だ。
見つかってしまったなら仕方ないと、瀬那は協力者の元へと急ぐ。服装を覚えられては潜むこともできなくなるので、別の服へと着替えるのが先決だ。えらく本気だなあと思うけれど、瀬那としてもギフト券と食券は欲しいものであるし、やるからには本気で挑みたい。
「セナ! こっち!」
「鈴音!」
追っ手を何とか撒いてから協力者である鈴音の元へと辿り着き、瀬那は急いで部屋へと入る。差し出された着替えに瀬那はひくりと口元を引き攣らせた。
「勝つつもりある……?」
「あるよ! 今までズボンだったから印象ガラッと変えないとね!」
差し出された着替えはよく見たらキュロットだったが、こんなにおしゃれで短いものは履いたことがなく心許なく、瀬那は鈴音を恨めしげに眺めた。街によく居る可愛い女子大生が着ているようなピッタリしたトップスにミニのキュロットだ。こんなの似合うわけがない。逆に浮いてばれるだろうにと嘆きながらとりあえず着替えてみるが、鈴音は似合う! と嬉しそうだった。
「いやいや、似合わないし……落ち着かない……」
「ずっと思ってたんだよねえ、セナ脚綺麗なんだからミニ履けばいいのにってさー。予想どおり可愛いし! これなら絶対喜ぶよ!」
誰が、とは聞かなくてもわかる。瀬那は染まった頬を押さえて項垂れたが、鈴音はただ嬉しそうだった。
いつもダボッとしたパーカーやジーンズばかりで。彼氏の前でそんなのは駄目だと以前も鈴音に言われたが、女らしさのない普段着に進は何を言うこともなかったし、そもそもデートという名のランニングだったりしていたのだ。夏祭りには浴衣も着たけれど、あれは脚を出すものではなかったし。あの卒業パーティーの服だって、ここまで短いものではなかった。
「セナに追いつくのは一人だけだし! というか逃げ切れなきゃ意地でも捕まえてもらわないと、妖一兄に持ってかれちゃうし」
「うう……冗談でしょって言いたいのに、ヒル魔さんの言うことだから否定しきれない……」
「むしろ探しに行ってもいいよ? 妖一兄に捕まる前に捕まりに行っても」
「………、つ、捕まりに……い、いや! ぼくも山分けしたいし!」
「そう? なら頑張って逃げ切ってよ!」
捕まえてもらいに行く、などという言葉に心が揺れたのを無視し、瀬那は決意も装いも新たに足を踏み出した。確かに、人混みに紛れて顔さえ隠せばこんな格好をするとは思わない人たちばかりだから、案外に気づかないだろう。そう思って外へと出ることにしたのだ。
「セナ見つけたぞー! やっぱクソ速えー!」
「おい誰の差し金だその格好! 止まれ馬鹿!」
「よっしゃ、ヒキョーがモットー、黒木様に任せろ!」
うまく紛れていたはずが、ふいにばったり鉢合わせた三兄弟に顔を見られて瀬那はまたも走ることになった。十文字は危険ではないという話だったのに、瀬那を見つけた途端目の色を変えて怒り始めたし、戸叶はギフト券に燃えているし、黒木は何だか不穏なことを口にした。まさかこんなところで見つかるとは。屋上から階下へと続く外階段を飛ぼうとした瀬那に、黒木が叫ぶ。
「おいセナァ! パンツ見えてんぞぉ!」
「――えっ!?」
黒木のとんでもない言葉に瀬那はついキュロットを押さえ、そのまま階段を一段ずつ降りる羽目になった。踊り場まで降りたところでふとスカートではないことを思い出して、黒木が本当に卑怯な手を使って足止めしたことに気がついた。
「こ、この卑怯者!」
「何とでも言え!」
「つっても追いつけねえしよ! もっとどうにかしろ黒木ィ!」
踊り場から更に階下へと向かう。三兄弟の姿が見えなくなった時、もう一度瀬那はショートカットに階段を飛ぼうと足に力を込めた。地面から足が離れた瞬間、今度は真下に人影が見えて更に瀬那は焦った。
「ひいっ!?」
「―――っ!?」
驚いた顔が、何度見ても見飽きない顔が下にあった。回り込まれていたのか、それとも偶然こちらから探していたのだろうか。ちょうど着地点に目を丸くした進が瀬那を見上げていたのである。
避けなければ、と顔を見る前まで思っていたのに、そこにいるのが進だと認識した瞬間、瀬那は体勢もそのままに重力に抗うことなく落ちた。
「………っ! ……あ、だ、大丈夫ですか!? 怪我は、」
「……問題ないが、小早川こそ怪我をしたか。お前ならすぐに体勢を立て直せたように思うが」
片腕で瀬那をしかと抱え込み、もう片方は手すりを掴んでこれ以上階段を落ちないよう踏ん張ってくれている。いくら進でも飛び降りる人にぶつかられて絶対に怪我をしないなんてことはないはずだ。無事だったから良かったものの、何てことをしてしまったのだろう。進からの信頼が厚いという事実は擽ったいが、指摘された瀬那は進の胸に埋もれながら謝った。
「す、すみません……進さんだってわかったら安心して、そのまま落ちちゃいました」
絶対に受け止めてくれると考えてしまったから。いや安心してどうするのだ。怪我をさせてアメフトができなくなってしまったら瀬那は一生かかっても償いきれない。本当に無事で良かった。
「………」
両腕が瀬那の背中にまわされ、ぎゅうと抱き締められて瀬那は少しばかり困惑した。
というか、捕まっちゃったなあ。
ふと逃げていた理由を思い出し、瀬那は抱き締められたままイベントが終了したことに気がついた。進くらいしか無理だろうとは言われていたし瀬那もそうであってほしいとは思っていたが、本当にそうなるとは。嬉しい。瀬那も応えるように進の背中に手をまわしたが、その前に渡すものがあったのだった。
「あの、捕まったので。ええと、リボン渡しますね。おめでとうございます。逃げ切るつもりだったんですけどね……」
小遣い制の瀬那としては、ギフト券は非常に欲しいものでもあった。食券も魅力的だったし、こんな格好をしてまで本気だったわけなのだが、進からは逃げられなかった。残念。次があるなら今度こそ逃げ切りたいものだ。
「小早川ごと貰えるのか?」
リボンを外して抱き締めてくれていた進の手首に結ぼうとした瀬那の手が握り込まれ、進がとんでもないことを口にしたせいで瀬那は唖然として絶句した。絶句して更に頬を染めてしまった。
「………、……え、ええ〜……。……後片付けとか打ち上げとかあるんで、……遅くなるかも……」
「構わない。迎えに行こう」
小さく笑った進の額が瀬那のそれにごつんと合わさり、覗き込んだ目が楽しそうに細められる。照れてしまった視線を逸らしながら、瀬那は進の手首にリボンを括り付けた。それが終わると進はまた瀬那を抱き締めて呟いた。
「ヒル魔より先に捕まえられて良かった」
「……捕まるなら進さんが良いなって思ってました」
ギフト券は惜しいが、嬉しそうな進が見られたので充分だった。直後に格好にも言及されて非常に照れてしまったわけだが。
そういえば誰も来ないな、とやがて立ち上がってから気づいたのだが、気を利かせた桜庭が三兄弟を回れ右させていたということを聞き、瀬那は非常に恥ずかしくなって真っ赤になってしまった。
*
アイシールド21の出張パシリ。恒例となったらしいコーナーだが、今回は少し違っていた。
『本日は番外編! アイシールド21の母校、泥門高校に行くよー! 特別ゲストがこちら!』
鈴音の紹介でカメラが移動する。最京大学へ進んだ十文字、武蔵工バベルズ所属の黒木、戸叶、小結。そして炎馬大所属のモン太が並んでいる。アイシールド21と同学年の者ばかりだった。一人足りないのは日本にいないからだと聞いたことがある。
『クリタンたちは今回お留守番だよー! ほれアイシールド21早く!』
土煙を撒き散らしながら画面奥から駆けてくるのは小早川瀬那。脚にブレーキをかけカメラ前で停止し、かつてのチームメイトの顔ぶれに嬉しそうに笑った。
『つっても中坊は三年だろ。いねえじゃん』
『今日は部室にいてくれるって言ってくれたから大丈夫』
『そこよりまずあの部室を映していいのかが問題だろ』
気心知れたやり取りがカメラの前で繰り広げられる。十文字の指摘に瀬那が困り果てた顔を披露し、全員がううんと唸っていた。知らない者は何がなんだかわからないだろうが、泥門のアメフト部部室はまごうことなき色物である。それもこれも、初代キャプテンの所業でそうなっているらしいのだが。
『でもテレビも映ったことあるよね? 今更じゃない?』
『というか泥門の部室ってもうアレしか思い出せなくて……』
『染まり過ぎ』
遠い目をして呟いた瀬那に三兄弟が突っ込んでいる。だらりとした会話を切り上げた一行は、場面カットを駆使して泥門高校の正門前へと移動した。写真撮ろうよ! とはしゃぐ鈴音にただ遊びに来ただけ疑惑が持ち上がる。
『あー、変わってないね』
『変えようがねえからな……』
泥門デビルバッツ、と何故かマスコットも描かれた看板がギラギラと鎮座している部室だ。今やまともな部室で過ごしているだろう彼らは口元を引き攣らせて見上げていた。
『来てるかな?』
『いなけりゃ入って待ってようぜ』
ガラリと引き戸を開けた彼らは、手探りで明かりを点けた瞬間に驚くこととなった。
『お久しぶりッス先輩方!』
『うおおっ!』
折り目正しく九十度まで腰を曲げた挨拶をしたのは去年までのキャプテン、中坊明だ。瀬那たちの初めての後輩でもあり、アイシールド21に憧れて入部してきたことは界隈で有名である。
『中坊くん!』
『朝から待機してましたッス!』
『二時からって言ったじゃねえか』
『久しぶりに会えると思ったらいてもたってもいられず! 先輩方に早く紹介したくて』
『電気は点けろよ……』
『おっ! 来たなお前ら!』
『やー! ブロちゃんじゃん!』
『どぶろく先生!』
泥門デビルバッツのトレーナー、アメフト界でも有名人である酒奇溝六だ。王城ホワイトナイツの監督、庄司軍平の元チームメイトであり、二本刀と呼ばれた逸話もある。今は見る影もないような姿だが、元泥門の面々が慕うからには相当の者なのだ。
『おう、特にセナ。ほれ、紹介したいのはこいつだ』
溝六に促され中坊の隣に立ったのは緊張気味な背の高い女子。卒業生たちがきょとんとした顔で眺めた。
『泥門デビルバッツの女子選手だ!』
『………!』
全員が驚愕の表情を晒してしばしの沈黙が訪れた後、せきを切ったかのように一気に騒ぐ元泥門生たち。興奮のままに叫びながらばしばしと瀬那の背中を叩き、最後の最後で勢いに負けた瀬那がぺしゃりと地面に倒れ込んだ。
『大丈夫ッスかセナ先輩!?』
『女子選手! なんで俺らは卒業してんだ!?』
『お前ら二人とも卒業危なかったしな。ダブってたら一緒にやれてたかもしんねえ!』
『いや三年だったら試合出らんねえから』
瀬那を助け起こした中坊の後、留年ぎりぎりというテロップに矢印がついた黒木と戸叶だが、モン太の言葉に呆れた十文字が突っ込む。ザ・泥門という様子のやり取りが少し微笑ましい。
『わあ、背高いね、良いなー。春大会も出てたの?』
『そうッス! 自分と同じくセナ先輩に憧れて入ってきたんスけど入れ代わりだったから、いつかOBとして来てくれることを待ってたッス!』
『いや、呼んでやりゃいいだろ……』
『中坊くん受験生だし仕方ないかな……。えー嬉しいなあ』
カメラの前ではいつも緊張気味だった瀬那が今は非常に嬉しそうだ。後輩の女子選手と握手をして、興奮しながらプレーについて語られて照れている。
『三人目だよね女子選手って』
『うん。でも小泉さんは辞めちゃったし……ちょっと寂しかったから嬉しいよ』
小柄な全身から嬉々とした様子が伝わってくる。周りも微笑ましげに見守っているし、今回は非常に癒やされる回だ。
『セナのロッカーもちゃんと用途どおり使えてそうだな』
『うん、良かったよ』
『泥門には女子選手用のロッカーあるんだよね! セナが使ってたやつ!』
部室の奥にカメラごと駆け寄った鈴音が、以前は小早川と付けられていた名札を指し、中で着替えができるよう広く作られているのだと説明した。開けてもいいかと後輩に問いかけた瀬那は、了承を受け取ると手慣れたようにドアを開ける。
『チアの衣装もあるね』
『おおー懐かしい! ねえセナ、ちょっと着替えようよ! ほらほら』
『えっ』
カメラをモン太に押し付けた鈴音が瀬那を引っ張ってドアを閉めて施錠する。テロップで鍵もかかることを説明しているが、他の面々は少々呆気に取られていた。やがてふと黒木が口を開く。
『……セナのチア衣装?』
『在学中は頑なに着なかったセナが?』
途端に色めき立つ男連中が映る。まじかよ、と期待に満ち満ちた顔で溢れていく。いやまあ、気持ちはわかるが、とちらりとそばのチームメイトへと目を向けた。今のところは至っていつもどおりの表情だが。
やがて解錠の音が聞こえて男連中は勢い良く振り向く。ドアが開いて現れたのは。
『………っ! なんっで主務Tシャツなんだよ!』
『いや、あったから……』
元気良く現れた鈴音の後ろには、ガムテープで主務と貼られた白いTシャツを着た瀬那が苦笑いで頭を掻きながら現れた。期待に期待した彼らの落胆は相当なものだろうと想像して同情した。
『懐かしーなー。それ正体隠すために着てたやつだよな』
『まあ、うん、それも。ヒル魔さんに選手やれって脅されてたし主務をアピールしてたんだけど、無理って言われて……』
『……まあ、セナはなあ』
『馬鹿だからなー』
『うぐ』
『泥門にまも姐の仕事やれる人がいないんでしょ』
瀬那だけではなく全員馬鹿、とテロップが入る。俺を入れるなと十文字が怒っているが、十文字も馬鹿な時があるとモン太が言い返す。こうしてムキになっているところは確かにそうかもしれない。
そうして和気あいあいと過ごしながらボールに触れたりタイムを測ったり、挨拶をしたりと終始楽しげに過ごしていた。
「今回も面白かったな。同学年はやっぱり仲良いし、安心して観てられるよ」
「ああ」
「中坊くんは炎馬行くのかな。セナちゃん追いかけていきそうだし、学力も同じくらいみたいだし……って、進!」
エンディングが始まって目を離そうとした時、動画のごく最後にとんでもないものが映ったのを桜庭は発見した。慌てて呼んだ進とともに一時停止した画面を覗き込む。
「写真だけど……セナちゃんチア衣装着たんだ」
鈴音と共に笑顔で泥門デビルバッツの応援旗をはためかせる画像が載せられている。その後すぐに切り替わった画像は、元チームメイト(男子組)の今にも服がはち切れんばかりのチア姿だった。さすが泥門というべきか、不良らしく中指を立てたりめちゃくちゃガンを飛ばしてきている写真だ。
「酷い写真だ……でも楽しそうだな」
「ああ」
瀬那のチア衣装に反応した進の機嫌が少々よろしくないことに気がついた桜庭は、不特定多数に見られるのを嫌がっているだろうことに内心同意してしまった。気持ちは非常によくわかるが。
進がそんな独占欲を出すなど昔なら有り得なかったことだ。さすがだよ、と瀬那の顔を思い出して小さく笑った。
*おまけ会話
「あ〜……、ですよね、見ました、よね……」
「ああ、最後までな」
「あ、あれは……皆で着れば恥ずかしくないって話になって……」
「似合ってはいたが。……学祭の時も思ったが、目のやり場に困る。外では脚を出さないでほしいところだ」
「………、……い、家なら……?」
「構わん。俺しか見ないならな」
「………、………。またたらしてる……」