自業自得

「あら、土方さんこんなところで奇遇ですね」
「お妙さんか。……珍しい組み合わせだな」
 九兵衛、月詠、あやめらとのダーリン自慢大会の最中、パトロール中だった土方を見かけ、妙は声をかけた。
「こんなところまで買い物か? 遠くまで来るんだな」
「今、いろいろあって同棲を」
「……全員?」
「そうみたい。1人はCGらしいんだけど」
「本物よ本物!」
 少し眉間にしわを寄せて、土方は不審げに視線を巡らせた。言い合いを続ける女たちのなかにはあのスナックのママであるお登勢の姿までもあった。なんとも恐ろしいメンツであるが、この顔触れを見て、思い浮かばないはずのない男の顔が土方の脳裏に過る。
 ――またあの野郎か……。
 頭を抱えたくなったが、ここは深く関わらない方がいいだろう。そう考えて土方は早々にその場を後にした。


 なんでこんなところにいやがんだ。銀時は歪む表情を俯かせて頭を抱えた。
 土方がこんなところにいて、さらには長屋の女どもと鉢合わせした。本当空気読めあの女。仕事中に呼びとめてんじゃねえよ。ぶつぶつと声にならない声で呟き続ける。
 恐らくだいたいのことは察してしまっただろう。顔なじみが何人も同じ時期に同棲などと言い出したのだ。最悪だ、ばらされる。だらしない男だと思われるだろう。もともと印象が良くないことくらい知っている。さらにイメージは悪化しているだろうと落ち込み、何度目かの重い重い溜息を銀時は吐いた。
「てめー、何してんだ」
 結局見つかるのは、運命の悪戯か。

「……てめーが救いようもねェ大馬鹿野郎ってのは知ってたはずなんだが」
 全蔵からの説明を受けて土方は大きく重い溜息を吐いた。
「本当に覚えてねえんだよ。どうしようもねェだろ」
「行きずりの見ず知らずの人間ですらねェ、顔なじみとねェ。お前、もう死ぬしか道は残されてねェよ」
「今現在、それ以外の道を作ってるところだ」
 呆れを通り越してものも言えないといったように、土方は煙草に火をつけた。紫煙を吐き出して土方は銀時の顔へ視線を向けた。
「死んで詫びろ。手っ取り早いだろ」
「お前さっきから死ねしか言ってねえよ!」
「まあでも、同棲まで始めたんだ、女たちは楽しそうだし、今ここでばらした方が傷つくと思わねえか?」
 全蔵の言葉に土方は黙って考える。確かに、それなりに楽しそうに見えた。女を泣かせたとあれば問答無用で斬りかかるところだが、それをしないのは顔見知りである以上に、どの女も嬉しそうに生活していたからだ。
「お前だって酒弱えじゃん。なんで俺ばっかりがこんな目に……」
「俺はわきまえてる。一緒にすんな」
「おいおい、お前真選組の副長まで相手にするつもりだったのか」
「どこをどう曲解したらそうなるんだよ!」
 全蔵の言葉に銀時はさすがに洒落にならないと声を荒げる。本人の目の前で何を言い出すのか、土方の顔が般若に変わっていく様子をもろに見てしまい、銀時は焦り出した。
「お妙さんまで手ェ出すとはな。近藤さんには死んでも言えねェ」
「おい、副長さんよォ、言ったらまじでどうなるかわかってんだろうな。二度と市中見回りできねえような体になるぞ」
「それは言いすぎだろ、何言ってんだお前。どんだけ自分の体力に自信あるんだ」
「お前が何言ってんだァァ! もう死ね。帰れ」
 あらぬ方向へと向かわせる全蔵の言葉に銀時は苛立つ。冗談だろ、とへらりと口元をにやけさせる全蔵に殺意を抱いたのは、銀時だけではなかった。
「てめえの馬鹿さ加減にはほとほと呆れるぜ。おい、こんだけ俺に話すってことは、まさか協力させようなんて思ってんじゃねえだろうな」
「お、さすが察しがいいな。俺1人じゃちっと荷が重くて」
「おいィィ! 頼むからこれ以上ややこしくするなァァ!」

 その後、なんとか耐えろ、と告げて全蔵と土方はその場を後にした。1人残された銀時は、何より知られたくなかった人物に状況を知られ、目の敵にされ、屍のように立ち尽くすのだった。