幕間 被害者
⚠悪ふざけが過ぎるので注意
食べ飲み放題の時間制限により店を出た一行は、途中参加の煉獄たちの腹が満たされていないというので次の店へと移動するようだった。胡蝶はどうする、と冨岡に聞かれ、帰るのならば冨岡を連れて行けと宇髄が付け足した。
「だいぶ酔いも醒めてきましたから付き合いますよ」
「なら行くか。そういや試すの忘れてた酒があるんだよなあ。焼酎の梅酒割り」
「梅酒割りって。酔わせるためのお酒みたい」
「おお、三杯も飲めば酔っ払えるらしいぜ」
宇髄の先導でやってきたのはスナックだった。学生の身分で滅多と足を向けることはないのではないだろうか。少なくともしのぶはなかった。
「行きつけなんですか?」
「ああ、まきをがバイトしてんだよ。よおママ」
「いらっしゃい。うわあ、久しぶりに来たら美男美女引き連れて……」
「あ、いらっしゃい!」
店内は二組の客がいたものの、顔見知りなのか宇髄は客にも声をかける。店長である年配の女性と宇髄の彼女であるまきをがにこやかに出迎えてくれた。
「食い足りねえんだけど、飯ある? お前ら何飲むんだ、そろそろやめとくほうがいいか?」
「どうする、しのぶちゃん? 私はまだ大丈夫だけど……」
「そうですね、度数の低いものとかあればまだ……」
どんな種類があるのかもわからず、とりあえずママへと顔を向けると、安心するような笑みを向けてくれた。
「そうね、シャンディガフとかレッドアイがましかもねえ。ソフトドリンクもあるから何でも言ってみて」
「あ、ありがとうございます」
メニューを手渡され、女子三人で覗き込む。宇髄に頼まれる前に不死川が注文し、錆兎と煉獄はビールを頼んでいた。
「よし、焼酎の梅酒割り三つ」
「待て貴様。その三杯の割り振りはどうなっている」
「ん? そりゃ俺と冨岡と伊黒だけど」
「何故俺まで入っている! 先程酔いやすい酒だと言ったばかりだぞ貴様」
「いや、飲んでみたくなっただろ? 大丈夫大丈夫、潰れそうになったらやめりゃ良いんだし。それとも何だ、一杯で酔いが回る自信でもあるか? だったら手加減してやんねえとな」
「大丈夫よ、伊黒さんがもし酔い潰れたら私が連れて帰るわ!」
退路の無くなった伊黒は頭を抱え溜息を吐いた。差し出された三つのグラスをじとりと眺め、諦めて手に取った。
宇髄はあくまで無理強いする気はないのだろうが、負けず嫌いが集まるこの面子相手への煽り方を良く熟知している。自覚のない甘露寺の後押しもありすんなりと伊黒を操ることができていた。
「俺はとりあえず食事をしたいのだが!」
「私は結構食べたし、おつまみだけで良いや」
楽しそうな高笑いが店内に響く。すでに出来上がっていた面々の他に、今まで顔色すら変わることのなかった宇髄の頬に赤みが差し、けらけらと笑っている。
「おお……宇髄の酔ってるとこ初めて見たなァ」
焼酎の梅酒割りなどというアルコールをアルコールで割った飲み物は、すでに何杯目かもわからないほど宇髄の胃の中に収まっている。一軒目から蓄積されたアルコールのせいもあるだろうとは思うが、良く飲みに行く不死川たちが初めて見るというのだから、どうやら酔いやすいというのは本当のようだった。
「そうだね、本当なんだそのお酒」
「なかなか気分良いな、酔っ払うのも」
顔色が変わっても意識がはっきりしているところはさすがというべきか、しのぶはぼんやりと眺めながら伊黒へと目を向けた。こちらは肘をついた右手に額を預けて俯いている。頭が痛いそうだ。
「何故潰れないんだこいつは……おい冨岡、」
伊黒の言葉とともにテーブルを挟んだ斜め前に座る冨岡へ視線を向けると、他と同じく頬を赤くしてグラスを傾ける冨岡がいた。少々目がぼんやりとしている。
こちらも宇髄の注文するままグラスを煽っていた。どうやら三人ともようやく酔いが回ってきているらしい。
「貴様も酔っているのか……」
「うお、まじかァ。焼酎の梅酒割り凄えなァ」
「でも何杯飲んだの? 伊黒さん大丈夫?」
「義勇が酔ってるの初めて見るね。錆兎と足して二で割れば良い感じになりそう」
「うるさいな。義勇、飲んでばかりいないで何か食べろ」
「何か頼むかァ? 煉獄も食い足りねえだろ」
「なくても構わないが、頼むなら食べるぞ!」
頼んだ料理はすでにあらかた食べ終えているが、皿に盛られたスナック菓子はまだ残っている。
「義勇、どれ食べる? ポッキーとプリッツ、チョコレートとおかきがあるよ。ほら錆兎、渡して」
錆兎の隣にいる冨岡は、反対側の錆兎の隣にいる真菰からは少し遠い。スナック菓子の皿を差し出しているものの冨岡から手が伸びる気配はなかった。
「義勇、ほら」
グラスに入れられたプリッツを一本冨岡の口元へと錆兎は突き出し、促されるまま冨岡の口が開く。目の前の光景はまるで雛鳥の餌付けではないか。
咀嚼し飲み込んだ冨岡が柔らかい笑みを錆兎へと向けた。瞬きをした錆兎がつられるように笑っている。カメラを向けておけば良かったと後悔していると、スマートフォンを構えた甘露寺と目が合い親指を立てられ、とても良い笑顔を向けられた。
「さすがに酔ってんなあ、冨岡潰しに成功したぜ」
「まだ潰れてねえだろォ。元気そうじゃねえか」
「お前も今日元気そうだよな。飲む?」
「殺す気かァ……てめェらが酔うようなモン飲むわけねェだろ」
ようやく皆の顔色が同じになってきているのに、一軒目ですでに真っ赤だった不死川が飲んでは大変なことになりそうだった。愉快そうに笑いながら宇髄はグラスを煽っていた。
「うわ」
冷やかしの声や指笛の音が響き何事かと顔を向けると、宇髄はカウンターの奥にいるまきをの顎を掴んで深いキスを交わしていた。人のいる店内でやるようなことではない。
甘露寺は興奮して顔を真っ赤にしながら騒いでいるし、伊黒は甘露寺を宥めながらも見てはいけないと窘めている。げんなりしている者や照れている者、後は見ているのかもわからないほどぼんやりしている者がいた。
「あいつ酔いすぎだろォ……」
初めてと言っていい宇髄の酔っ払い姿に皆物珍しくしていたのだが、さすがにこれには酔いが覚めた者もいたようだ。しのぶもはっきりいってドン引きである。満足したのか宇髄はしのぶたちのいるテーブルへと戻りソファへ座った。
「甘露寺の前で変なものを見せるな馬鹿が」
「恋人同士の睦み合いの何が変なものだよ。俺はお前らに手本を見せてやったんだぜ」
「要らんぞ」
酒のせいだけではない赤みが頬に差しているように見える錆兎と真菰は、宇髄の標的になりそうな気配を感じたのか少し様子を窺っている。
「せっかく良い具合に酔ってんだから、楽しいことしてえだろ?」
「要らん。今すぐ酔いを覚ませ」
「俺様が直々にレクチャーしてやるからな。おい胡蝶」
びくりと思い切り肩を震わせ、しのぶは顔を向けることができずに固まった。酔いが覚めてしまったしのぶは、この場をどう切り抜けるか必死に考えていた。
「い、いやですね宇髄さん。先程視界に入りましたので私はもう結構ですよ」
「俺の教えるとおりにやれば冨岡なんかイチコロだぞ。覚えたくねえの?」
「もうすでにイチコロにしてますから結構です。まきをさんの前で浮気ですか」
「だってあいつ俺がモテるの好きだし」
まるでしのぶが宇髄に惚れているかのような言い草だ。
実際冨岡がしのぶにベタ惚れであることは嫌というほど自覚しているし、しのぶたちにはしのぶたちのペースというものがある。正直興味がないわけではないが、宇髄から手ずから教えてもらうのは絶対に嫌だ。
しのぶよりひと回りもふた回りも大きい体格なので効くかはわからないが、合気道の技を使うのもやむなし、と酒で少し動きが鈍くなった頭で考えていた。
手招きする宇髄に周りが止め始めた時、勢い良く一人が立ち上がった。
「胡蝶にやるくらいなら俺にやれ」
唖然としたのは恐らく同じテーブルにいた全員だった。
しのぶを庇うために言った言葉であることはわかるのだが、先程の宇髄の言葉が頭に反芻した。宇髄の教えるとおりにやったら相手はイチコロなのである。イチコロにされてしまう。そう考えるとしのぶの顔に熱が集まった。
いや、それより相手が男であることに宇髄は我に返るだろう。そう思った瞬間、宇髄は同じように立ち上がった。
「よしきた。任せろ、最強のやつくれてやるぜ」
キス魔だ。
相手が誰であろうと自分が酔っていればお構いなし、心底楽しそうに赤らんだ顔に笑みを浮かべている。
「いやっ……、ちょっと待ってください! ま、まきをさんは! あなたの彼氏が目の前で男性とキスしようとしてるんですけど!」
カウンターの奥でこちらを眺めていたまきをへ必死に問いかけると、品定めのように冨岡を見ながら少し考える素振りをした後、親指と人差し指で輪っかを作って見せた。
「全然オッケー」
「いやおかしいでしょう!」
「こいつで胡蝶をイチコロにしてやれよ冨岡!」
「いやー! 浮気ですよこんなの!」
誰も口を挟めぬまま皆が見守る中、宇髄の顔が冨岡へと素早く近づいた。
体感はとても長かった。しのぶの顔色が蒼白のまま、テーブルを挟んだ二人のキスシーンを見せつけられ動くことができなかった。なぜこんなことに。有線が流れていて助かった。生々しい吐息だとか諸々を聞かずに済んでいる。というかいつ離れるのだこの男は。
「ぐっ、」
呻き声を漏らして顔を離した宇髄が舌に指を這わせ、目で確認している。血が滲んでいるようだった。
「何で噛んだの?」
「……長い」
少し息の上がった冨岡が手の甲で口元を拭いながら言った。
こんなにがっつりやられるとは思っていなかったのだろう、少々目尻に水分が滲み、じとりと宇髄を睨んでいる。
「はああ? ディープキスなんか長くてなんぼだろ。お前はちゃんとやったことあんのか? まあいいや、次お前な」
「嫌だ、絶対に嫌だ! やめろ離せ!」
白羽の矢が立った錆兎には悪いが、宇髄を止めるより先に冨岡の状態を確認しなければならない。
ライバルだとしのぶが口にした時、笑い飛ばして取り合わなかったくせに。完全に浮気現場ではないか。イチコロになる技は習得してしまったのだろうか。酔いが覚めたはずなのに思考があちこちに行って纏まらない。宇髄がソファで錆兎に馬乗りになっているのが視界の端に映った。
「何でやっちゃうんですかあ、私が見てるのに。せめていないところでしてくださいよ」
うがいをさせようと渡したグラスの液体は色がついており、間違いなく水ではなかったが気にしている暇はなかった。とにかく何でもいいので洗い流してしまいたい。それ焼酎の梅酒割り、と指摘する誰かの声が聞こえたが、構わず冨岡の口へと持っていく。グラスを傾けると素直に飲んだ。
「おいおい飲んでんじゃねェよ冨岡ァ、落ち着け胡蝶」
「はい終了お、お前はこっち」
「やめろォ! てめェとキスなんざ死んでも嫌だわァ!」
「そう言うなって。人生においてキスの上手い男はモテるんだよ。不死川もモテてえだろ? 黙ってレクチャー受けろ」
不死川を捕まえて襲いかかる宇髄の下から這い出て来た錆兎を真菰が引っ張り上げている。若干泣いているようにも見えた錆兎は、赤いのか青いのか判断に困る顔色をしていた。
ソファの背もたれに体を預け寝そうになっている冨岡の頭を抱え込みながら、もはやべそをかいていたしのぶは甘露寺へと視線を向けた。このままでは男は全員確実に餌食になってしまうが、伊黒とのやり取りを甘露寺は受け入れるのか。まきをは目を輝かせて笑っていた。
目が合うとスマートフォンを向けられシャッター音が響いた。何故か今日カメラマンになりきっている甘露寺は、しのぶの視線に嬉しそうに頷いた。
「伊黒さんと宇髄さんがキスしたら、私ちゃんとカメラに収めるわ!」
逃げようとした伊黒を腕だけで捕まえ、不死川から離れた宇髄が照準を定めた。その間に煉獄が席から離れようと立ち上がる。阻んだのは不死川と錆兎だった。
「てめェも道連れだァ……」
「絶対に逃がさん」
無駄に結託した二人から逃れるのは、煉獄といえど厳しいようだ。素面ならば違ったのかもしれないが、ここには酔っ払いしかいない。
宇髄と同じように何故か甘露寺も伊黒を捕まえていた。
「ひどいひどい。あんなに私のこと好きだって言ったのに。やっぱり宇髄さんが一番なんじゃないですか」
ほぼ意識が落ちかけている冨岡に恨み節を聞かせていると、あやすような加減で背中をゆっくり叩かれた。抱きかかえていた冨岡の顔を覗き込むと、泣くなと寝惚けた声で腑抜けた笑みを向けられた。ああもう。
「可愛い! でも浮気ですから!」
「……ごめん」
背中を叩いていた手に緩く力が入って抱き寄せられ、しがみつくような姿勢で冨岡はしのぶの胸元に頭をすり寄せた。酔って意識がぼんやりしているのは分かっているが、しのぶも酔っているので正常な思考はしていなかった。こんな姿初めて見るのだ。甘露寺の楽しそうな悲鳴が聞こえた気がした。
「あー可愛い! ふざけないでくださいよ、それで何でも許してもらえると思ったら大間違いですから!」
冷静な者がいたらすぐにでも逃げ帰ったはずだろう。男連中は宇髄以外皆ぐったりとして、女子は三者三様の反応を見せていた。真菰は口元を引き攣らせ、しのぶは泣きながら可愛いとひたすらのたまい、甘露寺はただただ楽しそうにこの場の空気を堪能していた。伊黒すら喜んで生贄に捧げるほどである、甘露寺は一番肝の座っている人間ではなかろうか。
「感謝しろよ、お前らこれでモテモテだぞ。良かったなあ俺がいて」
何が良いのかさっぱり分からないが、完全に寝落ちた冨岡を抱えてしのぶはずっとぐずっていた。
*
死屍累々という言葉が脳裏に浮かんだ。
気がつくと二軒目に来たスナックの店内にいて、周りには死んだように倒れている面々が目に映った。店主の女性の計らいで外に放り出されることはなかったが、店の床やソファに死体のように倒れ込んでいる人影が複数ある。
昨夜初めて酒に酔うという経験をした冨岡は、自分を抱きかかえて眠る胡蝶の腕から起こさないよう抜け出した。
ぐずる胡蝶をあやしていたはずが、その先の記憶がない。熱に浮かされた時のような浮遊感のあった頭もすっきりしているので、恐らく寝てしまったのだろうと思う。
「あー、頭痛え……」
トイレから戻ると昨夜の騒ぎの元凶である宇髄が目を覚まし、こめかみを押さえて呟いた。顔色は土気色になっている。
一人また一人と覚醒し、店内は寝起きの大学生でいっぱいだった。
「……言うことがあるよなァ」
起き抜け早々に宇髄へ狙いを定めた不死川が、地を這うような低い声音で問いかけた。
「……ああ、うん。俺がどうかしてたわ。すまんかった」
きっちりと覚えているらしい宇髄が不死川から目を逸らして謝った。唸り声を上げながら顔を覆い、大きな溜息を吐いた。
「でも酒に酔うってのは割と楽しかったんだよなあ……」
「悪酔いしすぎたな。俺はもう犬に噛まれたと思って忘れることにするが」
「……胡蝶の奴、許すのかねェ」
錆兎と不死川が顔を見合わせ、まだ眠っている胡蝶へと視線を向けた。死人のような顔をした宇髄が顔を上げる。
「甘露寺は楽しそうだったし、真菰も引いてはいたがさほど気にしてはいなかったはずだ。胡蝶は……その、物凄く騒いでいただろう」
何なら泣いてすらいたので、標的にされた冨岡自身も謝って許してもらえるのか不安になった。笑っていても内心怒っているという、冨岡にとっては器用なことをする胡蝶を宥めるのは難しいかもしれない。
「ううん……」
小さく唸って身動ぎをした。宇髄が焦ったような表情で胡蝶の隣にいろと冨岡へ指示をする。少しでも怒りを和らげようとするための行動らしいのだが、起き抜けに泣いていた原因の冨岡がいては逆効果ではないのか、と伊黒の呟きが耳に入った。
「俺が隣にいるほうが逆効果だろ」
「何故貴様が選択肢にあるんだ。甘露寺か真菰を起こして隣にいさせるという手になるに決まっているだろう」
普段面倒ごとは甘露寺から遠ざけるはずの伊黒が珍しい提案をした。それほど昨夜の胡蝶の取り乱し様に心を痛めたようだった。
「甘露寺なんかめちゃくちゃ喜んでたじゃねェか。あんなん隣にいたらそれこそ逆効果だろォ」
「甘露寺が逆効果になるわけないだろう!」
「うるせェ、叫んでんじゃねェ!」
どちらの声も大きく、うるさかったのか胡蝶の寝ぼけ眼が薄っすらと開いた。早く行け、と錆兎が立っていた冨岡の背中を押し、促されるまま胡蝶の隣へと戻った。
「おはよう」
「……おはようございます……」
思考が働いていないまま、胡蝶はぼんやりと冨岡を見つめた。瞬きをして伸びをして、ようやく瞼が半分ほど持ち上がる。周囲に目を向けてから、もう一度冨岡へと視線を戻した。
「ええと……ここ昨日のお店ですよね。ひょっとして一夜明けました?」
「ああ、朝だ」
欠伸をしてもう一度腕を伸ばしてから、ようやく意識が覚醒したらしく、胡蝶の目がいつもどおり大きくなった。記憶がある素振りが今のところない。
「家に連絡してません……無断外泊」
まずい、とスマートフォンを探し当て操作すると、家からの着信が何度も入っていたようだった。
「大変、相当怒ってますよこれ。どうしましょう」
「俺が引き止めたと言えばいい」
「引き止めてないのに言えるわけないじゃないですか。素直にお酒飲んで寝てしまったって言いますから……」
言いかけて胡蝶の動きが止まり、スマートフォンを見つめていた顔が冨岡を見上げた。険しい表情が凝視してくる。
「………!」
胡蝶が勢い良く振り返った先に、土気色の宇髄がいた。振り返った瞬間宇髄は胡蝶へ深く頭を下げた。反省していることが伝わったのだろう、胡蝶は口を開けて何かを言おうとしていたが、やがて溜息を吐いて手のひらで額を押さえた。
「……宇髄さんも初めて酔ったということですし、反省されているようなのでもう結構ですよ」
「ほんっと悪かった。とにかく俺が教えてやらなきゃって使命感に駆られて」
「私たちは無事だったので良しとします。……無事でしたよね?」
「ああ、誓って女には手出してねえよ」
いくら酔っていても記憶をなくしたわけではないらしい宇髄は、胡蝶の言葉にしっかりと頷いた。冨岡の知る限りでも餌食になったのは男だけである。寝ている間のことは分からなかったが。
兎にも角にも胡蝶と甘露寺を含めた飲み会は男連中が項垂れるほど盛り上がり、朝方にようやく幕を閉じたのだった。