幕間 しのぶ
「ようやく胡蝶も二十歳か。じゃ、成人祝いに飲みにでも行くか」
「二十歳になったからってわざわざお酒なんて」
「そのうち慣れてないとまずい機会に出くわすだろ? どういう酔い方するかも確認しとかねえとなあ」
「もっともらしいこと言ってるが、こいつは単純に飲みてェだけだァ」
どうやら宴会を開く機会を待っていたらしい宇髄が提案し、それに否を言うものは誰もいなかった。一年とはいえしのぶより年上の彼らは、すでに飲酒の楽しさを知っているらしい。
しのぶがまだ十代だったからか、冨岡はしのぶの前で飲酒する様子はなかった。飲めるのかどうかも、好きか嫌いかも知らなかった。酔うと一体どうなるのか、興味がないわけではない。
「暇ならあいつらも呼べよ。適当に集まろうぜ」
大学に行っても宇髄たちが呼び出す相手は高校時代の友人が多い。気が置けず楽である、というのが宇髄の言い分だが、単純に彼らといるのが楽しくて好きなのだろう。本人ははっきりとは言わないけれど。
「伊黒さん呼んでもいいかしら?」
「おう、呼べ呼べ。知ってる奴らなら誰呼んでも構わねえよ。つうかあいつは呼ばなきゃ後が怖えしな。煉獄も呼んどけよー。独り身連中のためにうちの彼女全員連れてきてやるからよ」
「てめェの彼女じゃ人数が半々になるだけだなァ」
「寂しいか? しかし今日は全員用事がある。残念だったなあ」
「少しも残念とか思ってねェわ!」
面倒そうに宇髄をあしらう不死川をものともせず、肩を組んでからかい始める。不死川はこういうお節介な部分を享受する性格ではないらしい。
「甘露寺さんはお酒飲んだことあります?」
「うん、誕生日にお父さんから勧められちゃった。ビールは苦くて美味しさが分からなかったけれど、カクテルは美味しいと思ったわ!」
「カクテルなあ。あれも度数高えのあるから気をつけて飲めよ。友達同士とか以外の時は慣れるまで飲んだことないやつはやめとけ」
「宇髄さんてお父さんみたいだわ」
「せめて兄貴とかにしてくんねえ?」
一気に老け込んだ気分だ、とやる気のなくなった表情を見せた。へこんでいる宇髄には悪いが、先程の言動は父と言われても仕方がないと思う。しのぶの父のような過保護ぶりが垣間見えた。
「不死川も弱えんだからあんま強えの飲むなよ。担いで帰るの面倒なんだからよ」
「うるせェな、飲みすぎた時だけだろうがよォ」
「錆兎も弱えのに頑張っちまうからな。まあどっちも記憶なくさないだけまし。胡蝶の姉はどうなんだ?」
「ええと……飲んでるところを見たことないですけど」
そもそも胡蝶家は二十歳になったからといってすぐ酒を勧めるようなことはない。興味がないわけではないので友人間で飲んでいるだろうとは思っているが、酔うとどうなるかは知らない。
「父も母もそんなに強くないですから、あんまり飲めないんじゃないでしょうか」
「ほー、てことは胡蝶もそっちっぽいな。まあ、片方がしっかりしてりゃ安心だわ」
「片方?」
「ああ、そうか知らねえのか。そのうち酔い潰して寝込みを襲う計画を立てる可能性もなくはないだろうから、希望は持たないように伝えとくとだな。冨岡は阿呆ほど酒強いから、胡蝶が潰れても連れて帰ってくれるって意味だよ」
「あら、そうなんですか? わあ、ちょっと意外」
「だよなー。普段何もできねえくせに酒だけは強いってどういうことだよ」
「何もできないとは何だ」
「うるせーわ」
確かに少しばかりつまらなくは感じたものの、酔っ払いのようにはっちゃけたりもしなさそうだとしのぶは考える。自分がどんな酔い方をするのかは分からないが、まともな思考をしている冨岡がいれば、周りに迷惑をかけるようなことを仕出かしても止めてくれるだろう。
「……いや、寝込みを襲うって。そんなことしませんから」
危うく聞き流しそうになった宇髄の言葉に一応突っ込んでおく。先程から甘露寺がきらきらした目をこちらに向けているのはこれが原因だろう。
「いやー、成人したらやれることも増えるだろ? そしたら色々試したいこととかあるんじゃねえかって。任せとけよ、俺様大体のことは経験済みだからな」
からかいの表情を見せて冨岡へともたれ掛かる宇髄は心底楽しそうである。酔い潰してお持ち帰りするのはお前の役目、などと冨岡に吹き込んでいる。
「伊黒さんはお酒強いの。この間一緒に居酒屋に行ったわ。そこのお店料理がとっても美味しくて、今度しのぶちゃんも行きましょうよ」
「そうですね。甘露寺さんとなら安心でしょうし」
「ナンパには気をつけろよ」
「やっぱりお父さんみたいだわ」
げんなりとしている宇髄を放置したまま、行きつけになっているらしい居酒屋へと到着した。個人で経営しているらしい店はチェーン店ほど広くはないが、愛想の良い出迎えの声が聞こえてきた。団体ということで奥の座敷へと案内され、畳の上に並べられた座布団へと腰を下ろした。
「何飲みたいんだ? やっぱ最初はサワーか?」
「甘露寺さんは何のカクテルが美味しかったんです?」
「その時はカシスオレンジを飲んだんだけど、甘くて飲みやすかったの!」
飲酒初心者の甘露寺が美味しいと思ったものを教えてもらい、しのぶは倣って同じものを注文した。
「宇髄さんは強いんですか?」
「酔い潰れたことはねえな。ほら、周りが酔っ払い始めるとなんか醒めてくるだろ? 酔えねえんだよなあ」
「こいつは元々ザルだァ。冨岡と良い勝負しやがる」
「お前ら何飲むんだよ。ビールも良いけどやっぱ焼酎かねえ。お、地酒増えてんじゃん」
「ビールで良いだろォ、後でじっくり選べや」
不死川の言葉につまらなそうにしながらも、宇髄はテレビで見るようなサラリーマンのごとくとりあえずビール、と三杯注文した。店員が去ってから料理を眺め始める。
「ここチェーン店よりメニュー多いぜ。食べ放題メニューこれ」
二時間と決められているものの、学生の身分で食べ飲み放題は有り難いのだと宇髄は言った。確かに、良く飲むならば必須といえるのだろう。
「煉獄がやたらめったら食うから、宴会なんかは食べ放題ついてねえと怖えんだよな。ここは比較的良心的な値段だし、常連になっちまったらわりと良くしてもらってるぜ」
ジョッキとグラス、つきだしを人数分店員が運んできた。適当に頼むぞ、と宇髄が料理を頼む。とりあえずの注文を終わらせ、ジョッキを手に乾杯の音頭を取る。
「何だろうな、胡蝶の初飲酒祝い?」
グラスの音が鳴り、カクテルを一口含むと、甘みが広がりジュースのような味がした。確かに飲みやすい。
メニューのカクテル欄を眺めながら、文字だけでは度数がわからないながらも、かなりの種類があることに辟易する。甘露寺は飲んだことのないカクテルを頼んでいたが、有名なカクテルらしい。
「わ、生姜の佃煮! お店で食べられるなんて思いませんでした」
つきだしで渡された小皿には、好物である生姜の佃煮が入っていた。居酒屋で出るとは思っていなかったものに思わず声が弾んでしまう。
「あいつらいつ来るんだ?」
「錆兎たちはまだやることがあると」
「伊黒さんは駅着いたみたい。お店の場所わかるかしら?」
「ああ、何回か来てるしわかるだろ。胡蝶も選べよー、梅酒とかサングリアとか飲みやすいんじゃねえか」
「なんです、サングリアって」
「ワインにフルーツ漬け込んだ酒だよ」
「凄く美味しそうね! でもワインって度数高いんじゃなかったかしら?」
「フルーツ漬けるから低くなるけどな。別に割れば良いんだし、度数はあんま気にしなくて良いんじゃねえか」
「そうですね、ソーダとか水割りにすれば……」
「じゃあしのぶちゃん、一緒に頼みましょう!」
「ええ」
普段よりも少し頬の赤みがかっている甘露寺は、機嫌良く次の飲み物を店員へと頼んだ。カクテルは甘くて飲みやすいものの、甘すぎて喉が渇き、普段飲む水などよりも早く飲み干してしまう。
「おし、じゃあ芋ロック頼むわ、三つ! 銘柄は、」
「何で俺のまで頼んでんだァ!」
「いやもうなくなりかけだろ? 気を遣ってやってんのに何だよ」
「てめェらと飲んでるとペース乱されまくるんだよ! 好きに飲ませろやァ!」
「飲まなければ良いだろう」
「勿体ねえだろうがよォ」
「残っていたら俺か宇髄が飲む。伊黒も来る。錆兎には飲ませないでくれ、そんなに強くない」
「俺にも気を遣えやァ……」
「だから飲まなきゃ良いってのに」
目の前に自分用としてあると、飲めないことが申し訳なく感じるのだろう。見た目に似合わず律儀な不死川は、不服そうにしながらも舌打ちをして話を切り上げた。
サングリアと芋焼酎のロックが運ばれてきた。一口含むと先程のカクテルとは違う、酒の味が広がった。
「ソーダ割り美味しいわ! どう、しのぶちゃん」
「そうですね、先程のカクテルより好きかも。すっきりしていて」
ジュース感覚だったカクテルよりは飲酒している自覚が持てそうである。
飯も食えよ、と宇髄の親父目線のお節介が割り込んでくる。同時に座敷の入り口から顔を出した伊黒が声をかけてきた。
「お、来たか」
甘露寺の隣に座っていた不死川が席を開け、伊黒が声をかけながら座った。
当たり前のように席を開ける不死川に感心しながら、しのぶの向かいに座る甘露寺の頬が更に上気していることに気づいた。酒の効果か伊黒がいるからかは分からないが、とにかく楽しそうにしている。ひょっとしてそんなに酒に強くないのかもしれない。
ちらりと隣の冨岡を見上げても、普段と全く変わりない顔色である。宇髄の言った強いという言葉は本当らしい。その隣にいる宇髄も普段どおりの顔色だ。不死川の顔色はすでに赤みを帯びている。
「お前今日休みだったの?」
「ああ、二限が休講になったのでな。休んだ」
甘露寺が甲斐甲斐しく皿に盛った料理を受け取りながら伊黒が答える。食が細いと聞いているが、気を遣ったのか甘露寺が手渡したものに揚げ物は入っていない。伊黒は嬉しそうに見える。
「しのぶちゃんもちょっと顔が赤くなってきてるのね。大丈夫?」
「え? あ、そうですか? 確かにちょっと顔は熱いですけど、そんなに酔ってるつもりはないんですけど」
「顔に出るなら良いだろ。冨岡みてえに顔色が変わらねえと、無理に飲まされる可能性もあるしな」
「そういやどっかの大学でニュースになってたのがあったなァ」
有名な大学のサークルで、女子大生に強い酒を飲ませて昏倒させ乱暴した――なんて気分の悪いニュースがあったことを思い出した。知らない連中との飲み会は気をつけろ、と宇髄が保護者のように口にするのはその事件のことも気にしているのだろう。ますます親のようである。いつの間にか店員が新たなグラスを持ってきていた。
「貴様ら相変わらずペースが早いな。不死川など顔が真っ赤になっているではないか」
「酔ってねェよ、顔に出るだけだァ」
「宇髄が勝手に頼むからだ」
「お前放っといたら飲まなくなるじゃん。つまんねえだろ、いつか酔っ払うかもしんねえのに」
「ニュースの話をしながらそれはどうなんだ。貴様も必要ないのなら飲むな」
「勿体ないだろう」
「不死川と同じ言い訳」
どうやら酒に関しては好きというわけでもないらしい冨岡は、あれば飲むしなければ飲まないというスタンスのようだ。グラスが空くと気を利かせて飲み物を頼む宇髄がいるおかげで、冨岡の目の前にあるグラスは常に注がれている状態だった。
「冨岡さんのそれ、美味しいんですか?」
焼酎の度数が高いということは何となく知っている。サングリアをソーダ割りで飲んでいるしのぶからすれば、宇髄が好んで頼むものはすべてきつそうに見える。
「……飲みたいのか」
「ちょっとだけ。だめですか?」
恐る恐る、といった様子で冨岡は口に運びかけていたグラスをしのぶへ差し出した。匂いを嗅いでみると、酒の匂いが思い切り入ってくる。う、と顔をしかめると無理そうなら止めておけと声がかけられた。好奇心は止められず、しのぶは少しだけ口に含んだ。
「どう、しのぶちゃん。美味しい?」
「……私にはちょっと、合わないみたいです」
良くこんなものを飲み続けられるものだ、と冨岡とその隣にいる宇髄を眺めた。お子ちゃまには早えかもな、と宇髄が楽しそうに口にする。まるで冨岡はお子ちゃまではないという言い草である。
「伊黒さんのそれは何かしら」
「これは冷や、日本酒だが……」
きらきらと目が輝いた甘露寺を不安そうに眺めた後、何を訴えているのか理解した伊黒は控えめにお猪口を甘露寺側へと押した。甘露寺は案外酒が好きなようだ。しのぶも好きになる日が来るのかは分からないけれど、見ている側としては楽しそうなので良いだろう。
「一気に飲まずに少しずつ飲むんだ。日本酒も度数は高い」
「日本酒なあ、最近飲んでねえな。すんませーん、冷酒二つ! 不死川は何すんだよ」
「ウーロンハイにしてくれ。てめェらに合わせると俺が死ぬわァ」
「まだ入ってるんだが……」
「いや、飲むだろ? 胡蝶も気になってんじゃねえの?」
「え? いや私は、」
「しのぶちゃん、日本酒ってとってもすっきり飲めるわ!」
「え……美味しいんですか?」
「ビールよりは好きかもしれないわ」
驚いたような顔をして伊黒は甘露寺を見つめている。居酒屋に二人で行ったと聞いていたが、その時はカクテルばかり飲んでいたのだろうか。
「でもサングリアのほうが好き。フルーツの味がして美味しかったわ」
「じゃあ今度は割らずに頼みます?」
「そうね、しのぶちゃんも同じので良いかしら」
「そうですね、日本酒よりは手が出しやすい気がします」
楽しそうに笑う甘露寺に笑みを向けると、ほんの少し驚いたような表情をした。どうかしたかと声をかけるが、言い淀んで少しもじもじとしている。
「しのぶちゃん、本当に大丈夫? 顔が真っ赤なんだけど」
「本当に大丈夫ですよ。意識もはっきりしてますし。ちょっと暑いですけど」
締まりのない顔を向けたのは自覚したのだが、はっきりいって甘露寺の顔色も赤いので、自分だけが心配されるほどではないと思うのだ。初めて飲む酒に顔が赤くなるのは特におかしなことでもないだろうし、飲むのが嫌だと思ったわけでもない。
「水だ。飲んでおけ」
テーブルに置かれたグラスは水が入っているらしい。いつの間に頼んだのやら、甘露寺と不死川にも渡されている。
「酒の合間に飲むんだよ。日本酒飲む時も飲んだりするんだぜ」
「へえ……」
水は暑さを覚えていた体に染み渡るように浸透し、自覚のなかった酔いが随分楽になった気がした。とはいえ飲んだ酒がすぐに分解されるわけもなく、自覚したと同時にどんどん顔が熱くなってくる。横になれば楽になるだろうか。逆に酒がまわってしまったりしないだろうか。吐き出した溜息すら熱く酒臭い。これでは確かに、知らない人と飲みになんて行けないだろう。別に行きたくもないけれど。
「うん、酔ってるのは自覚しました。でも大丈夫です、お水飲んだらちょっとすっきりしましたから」
「なら良いんだけど……あ、お手洗い行かない? すぐそこにあったの」
「そうですね……行ったほうが良いかも……」
立ち上がりはらはらしている冨岡の頭を押さえるようにぐしゃぐしゃにして、冨岡と宇髄の後ろ側を通って座敷の外へと出た。甘露寺と手を繋いでお手洗いと書かれたドアを開けて、しのぶは押し込まれてしまった。
「ここで待ってるわ」
備え付けられた鏡を見ると、確かにこれは心配されても仕方ないと思える顔色をしていた。首や胸元も赤くなっており、不死川よりも赤いのではないだろうか。
これ、慣れるのだろうか。慣れてもっと飲めるようになるのか。別に酒が好きと思ったわけではないけれど、すぐに酔い潰れてしまったら、せっかくの集まりが楽しくない。できればもう少し飲めるようになりたいものである。
用を済ませ、手を洗ってドアを開ける。座っていた時よりも少し楽になった気がする。入れ違いに入った甘露寺が出てくるのを待った。
座敷に戻り元いた席に座る。冨岡が水のグラスを勧めてくるので、素直に口をつけた。
「無理そうならやめとけよー。冨岡が全部飲むから」
「あら、大丈夫ですよ。サングリアは冨岡さんには甘いんじゃありません?」
「飲んだことがない」
「そうですか、飲みます? ロックだそうですよ」
ソーダ割りは炭酸のおかげでお腹に溜まり満腹を感じていたが、ロックだとするりと喉を伝う。宇髄が勝手に頼むからというのもあるのだろうが、文句を言わないあたり冨岡は焼酎も日本酒も嫌いではないのだろう。梅酒のような果実酒くらいならしのぶでも問題なく飲めるだろうと感じて、次を頼むならそちらを試してみようと考えていた。その前に限界が来たら、諦めて次回にまわすつもりだ。
「でも凄いですねえ。冨岡さんも宇髄さんも伊黒さんも、水でも飲んでるのかってくらい顔色も変わらないんですから。水飲んでるんですか?」
「お猪口で水飲む奴がどこにいんだよ」
いつの間にやら熱燗を頼んでいたらしい宇髄が突っ込みを入れる。不死川が鍋から具材を掬い冨岡へと渡す。皿はしのぶの前に置かれた。
「ありがとうございます」
全員分をよそってくれているらしい不死川は、顔色は真っ赤でも意識ははっきりしているらしく、今日は普通だな、と宇髄にからかわれている。
「俺だって毎回絡んでたくねェわ」
「お前の絡み酒面白いのにな。前は煉獄の胸ぐら掴んでたし、その前は冨岡に殴りかかってただろ」
「ちょっと虫の居所が悪かったんだよォ……」
「自分の限界を見誤るからそうなるんだ。冨岡に対して文句を言いたくなるのはわかるが」
「文句っつうか顔見てるとなァ……何でこいつこんなザルなんだ? って腹立ってきて」
「宇髄には文句を言わないくせに……」
「俺もやられたけど? 不死川がうちきて飲んでた時な。ちょっと泣いてたし」
「デタラメ言うな、泣いてねェわ!」
相変わらず中学生のような関係が続いているらしい彼らに思わず笑みが溢れる。甘露寺が次の飲み物を頼むのをぼんやりと眺めながら、頭を持ち上げているのが辛くなり、冨岡の肩へと預けるように傾けた。
「眠いのか」
「……ちょっと。休めば大丈夫です」
サングリアの入ったグラスは殆ど空にしたけれど、おかげでまた酔いが回ってきたようだった。心配そうにこちらを見る甘露寺に笑顔を向けて目を瞑った。