体育祭・後日
食い入るようにテレビ画面を見つめる甘露寺と胡蝶を眺めながら、そんなに近づくと目が悪くなってしまうぞ、と義勇は考えていた。
「格好良いわ! 皆学ランが似合ってとっても素敵!」
「空手の型を取り入れてるんですか。硬派ですね、赤団は」
「これ真菰ちゃんかしら? バク転してるわ、凄いわね」
「錆兎と真菰がバク転してる」
鱗滝夫妻が体育祭を見に行くと聞き、機械に疎い二人のために姉の蔦子が付き添った。応援団のパフォーマンスと義勇たちの出た種目を撮っていたと胡蝶に伝えると、胡蝶の姉と甘露寺も見たいと騒いだらしい。甘露寺は初対面だった錆兎や真菰ともすぐに仲良くなり、溜まり場と化してきた気のする道場で、上映会のようなものが行われることになった。
当日見かけた蔦子たちに手を振る錆兎たちや、宇髄が不死川と伊黒を捕まえて義勇に突進して来るところまで映っていた。
「赤団は学ランだったけど、青は女子がチアリーダーの格好してたの。皆青色で統一してダンスしてたよ。あ、これ」
赤団のパフォーマンスが終わり、青の集団がグラウンドへと走って来る。ダンス部員が複数いたためか、青団は流行りの音楽に合わせて連携したダンスを踊っていた。
「踊ってみたかったなあ。煉獄くんがリズム感なくてやめたけど」
煉獄は応援団長を務めていたのだが、さすがに団長が踊れないパフォーマンスはやれなかったのか候補から外したのだと真菰は言った。
「真っ青で揃うと凄く見応えありますね」
「とっても可愛いわ。男女二人で踊る部分もあるのね」
女子四人はダンスが好評のようだった。三つのパフォーマンスのなかでは一番華やかだったせいもあるだろう。
「白団は特攻服みたいだよね、何か色々書いてるし」
「そういえばサラシ巻いてたな。巻いてないのは宇髄くらいか?」
「腹筋がバキバキだからファンが増えたらしい」
白団は音楽がなく和太鼓に合わせて扇子を使ったパフォーマンスを行った。動画で見返してみると、何とか揃っていたようで義勇は心中で安堵した。
「冨岡さんはどこですか?」
「……これ」
前列ではなかったので少し映像は遠いが、蔦子は義勇の正面で撮っていたらしい。中心の宇髄より左側の、前から五列目あたりを指した。
「不死川くんが旗持ってるんだ。不死川くんもサラシ巻いてないね」
「不死川はすぐ前を開けようとするから」
楽しそうに真菰が指摘した。宇髄の横にいる伊黒を見つけて甘露寺が嬉しそうにはしゃぎ出す。
「伊黒さん格好良いわ! 扇子が揃って凄く綺麗。開く音まで演出になってるみたい」
どの応援団も圧巻だったと女子三人は喜んでいた。動画は錆兎が参加した百メートル走が始まっている。
「これ宇髄くん圧勝だったよねえ。錆兎残念だったね」
「あいつが百メートル走に出て負けたところを見たことがないな」
「皆さん何に出たんですか?」
「私はねえ、借り物競争! 百メートル走も出たよ。女子一位だった」
「俺は百メートル走と棒倒しだな。騎馬戦は男子全員だったし」
「綱引きも全員だった」
「義勇は棒倒しと障害物だったか。というか聞きたかったんだが、何で騎馬戦で宇髄が上だったんだ?」
「じゃんけんで勝ったからだ」
ちょうど動画で騎馬戦が始まり、観客側に立つあくどい顔をした宇髄が映し出されている。今にも死にそうな顔をした伊黒も。
「伊黒が上ならもう少し行けただろうに……」
「それは不死川も言っていた」
錆兎と煉獄の騎馬に競り負け、体勢を崩した宇髄の鉢巻を奪われ、重量に負けた伊黒が崩れ落ち、義勇たちの騎馬は負けてしまった。何とも言えない顔をした錆兎が四人を眺めていたが、宇髄は楽しかったようだ。
「騎馬戦は負けちゃったけど楽しそうだわ。やっぱり競争って男の子は皆ムキになるのかしら」
「体を動かすのは好きだし、競争となれば本気にならざるを得ないな」
「綱引き白団に負けちゃったしね」
撮り終えたのか動画が終わり、画面の電源を消した。体育祭などどこの学校でもやるものだから、観て面白いのかと疑問だったが、予想に反して皆満足そうに笑っていた。
「楽しそうだったわね!」
「はい、満足しました」
にこにこと笑う胡蝶を眺めて、先程から思っていたことを聞いてみる。女子校にだって体育祭はあるだろう。胡蝶はほんの少しだけ頬を染めて義勇を見上げた。
「だって、学校が違うとこんなふうに動画でもなければ見られないでしょう」
「そうよ冨岡さん! 私も伊黒さんの運動してるところを見たことないもの。見てみたくなっちゃうわ」
「冨岡くんだって体育祭で頑張ってるしのぶ見たくない?」
問いかけに少し目を見開いて義勇は胡蝶の姉を見た。にこにこと笑う姿は妹と良く似ている。少し考えてから義勇は口を開いた。
「……成程」
「えっ」
「きゃあ! それってしのぶちゃんの勇姿を見たいってことよね? キュンキュンしちゃうわ」
「………」
「黙らないで何とか言ってくださいよ! 見たいんですか!?」
「しのぶ、落ち着いて」
確かに胡蝶と同じ学校だったなら、こうしてわざわざ動画を撮らずとも色んな姿を見られるだろう。稽古中の様子からも運動神経が良いことはわかっている。どの種目でも活躍しそうだ。想像してみると確かに、実際に見て応援もできるのは楽しそうだった。
「伊黒さんに直接応援されたら私物凄く頑張っちゃうわ! 応援もしたいもの」
「……ああ、そうだな」
「どっちですか? 応援したいのかされたいのか」
妙に食いついてくる胡蝶に少し困りながらも、義勇は黙るなと言われたのだから少しでも何かを言おうと口を開く。
「……どっちでも良いが、応援されたらやる気は出ると思う」
右腕の袖を引っ張っていた胡蝶が頬を染めて固まり、女子三人が歓声を上げる。錆兎は少しだけ照れたような顔をして義勇を眺めていた。