青い彼岸花とちょっと宇髄の思いやり

「……カナエさんを、呼んでくれないか」
 伝えなければならないことがある。
 ひとしきり騒いだ後、心配そうに見ていたカナヲに一つ頼みごとをした。
 上弦の伍との戦闘後、炭治郎はしばらく昏睡状態だったらしく、今ようやく目を覚ましたところだった。起きたばかりで体は辛いけれど、早く言わなければならないことがあったのだ。カナヲは炭治郎を気にしながらもカナエを呼んできてくれた。
「大丈夫? 無理しちゃ駄目よ。義勇くんも心配してたから」
 義勇にも心配をかけてしまったようだ。早く元気になって屋敷に戻らなければならないと思いつつ、二人で話したいことがあると口にすると皆部屋を出ていってくれた。
「思い出したことがあるんです。カナエさんが言ってた青い彼岸花のこと」
「! 見たことがあるの?」
「はい。俺も忘れてたんですけど」
 死の淵を彷徨っていた時、様々なものを見てきた。思い出したのだ。
 炭治郎の生家は山奥にあり、母に手を引かれて歩きながら山に咲く草木や花を見ていた。幼い頃、確かに青い花が咲いているのを一度だけ見たことがあったのだ。
「でも、あの後何度行っても二回目に見ることはできなくて。そのうち場所も曖昧になって、どこにあったのかまでは思い出せなくて」
「炭治郎くんの家の近くにあったのね?」
「はい。彼岸花だった、と思います。たぶんですけど……すみません、あんまり花に詳しくなくて……」
「いいのよ、ありがとう。炭治郎くん」
 ある時期にしか咲かないとか、すでに枯れてその場所で花を咲かせることはないとか、どんな理由があるのかもわからない。ただ、炭治郎が見た場所に青い花が咲いていたことだけは確かだった。
「あなたの家の場所を教えてもらえる?」
 普段の笑みが引っ込んで、真剣な表情が炭治郎を見つめていた。
 珠世の話をした時のような顔。カナエの覚悟をした時の表情なのだろう。
「あなたの生きた大事な場所を決して踏み荒らしたりはしない。その花だけを探しに行きたいの」
 黙り込んだ炭治郎が嫌がっていると思われたのか、カナエは頼み込むように言葉を続けた。
 そんなことを心配したわけではない。炭治郎は小さく笑って首を横に振った。
「大丈夫です。カナエさんはそんなことはしませんから」
「……ありがとう」
「でも、山奥なので……、俺も治してから一緒に……」
 土地勘がある者が案内したほうがわかりやすいだろうけれど、炭治郎は花を見つけることはできなかったのである。
 そうしてくれると助かるが、とカナエは心配そうに眉を顰めて顔を覗き込んできた。
「今も無理して話してるでしょう。完治するまでは安静にしないと」
「それじゃ遅いですよね……あ、でも、義勇さんなら……俺の家の場所、覚えてるかも」
「義勇くん?」
 きちんと確認したことはないが、義勇が炭治郎の前に現れたのは、恐らく指令が来たからのはずだ。それなら義勇の担当地区が炭治郎の家を含んだ辺りだということになる。二年前に一度訪れただけの場所を覚えているかはわからないが。
「それか、地図を……せめて俺の家までの……」
「そうね、聞いてみるわ。ありがとう、ゆっくり休んで」
 目を開けているのが辛くなり、炭治郎はぼんやりしたまま言葉を紡いだ。答えるカナエの声がまるで子守唄のように耳に届く。話の途中であるにも関わらず、炭治郎は眠りに落ちた。

 青い彼岸花がどんな効果をもたらすのかはわからない。
 だが少なくとも鬼舞辻無惨が欲していた過去があり、今も探している可能性がある。
 何かあるのだ、その花に。
 鬼舞辻無惨と唯一因縁を結んだ炭治郎が見つけていた。やはり彼が鍵なのだ。
「炭治郎くんの生家を覚えてる?」
「……正確な場所は曖昧だが」
 大まかな場所くらいならぼんやりと。
 柱が任務で訪れる場所はひと晩でもかなりある。基本的に場所まで覚えていることは稀だが、禰豆子の存在が強烈で印象に残っているらしい。
「青い彼岸花、もしかしたら見たかもしれないそうなの。だから探しに行きたくて」
 炭治郎はまだ安静にしなければならないが、悠長にしている暇はない。彼岸花を見つけるまでにどれほどかかるかもわからないのだから、隊士に頼むわけにもいかない。行ける者が行くのは当然の措置でもある。
「わかった。俺が向かう」
「……義勇くん。さすがに水柱不在になることはお館様の許可を得ないと……」
「俺の担当地区だ。そこを拠点にしても大した違いはない」
 行ける者が行くのが当然ではあるが。
 軽く頷いた義勇にカナエは少し呆れたが、本人は至って真面目に問題ないと口にした。確かに特務は義勇に全権が与えられているわけで、長引いた場合の拠点としても考えているようだが。
「義勇くん、あなたは特務隊の責任者なんだから、何かが起こった時のために手を空けておかないと。代わりの利くことは誰かに頼めばいいの。私に地図を書いてくれれば大丈夫だから」
 炭治郎には悪いが、生家の一室をしばらく借りる約束を取り付ければ長期になっても鬼から逃れられるだろう。呼吸が使えなくとも藤の花という鬼除けがある。カナエ一人でも何とかできる任務のはずなのだから、わざわざ柱が同行する必要はない。しかも義勇が想定しているのは、カナエの護衛のような意味合いが強い気がする。夜の間カナエを守ろうと考えているのではないだろうかと訝しむほどだ。いくら昔馴染みだからといって、そんなことを柱にさせられるわけがない。
「……わかった」
 開いた口が何も発することなく一度閉じられ、やがて一言呟いた。どうやらカナエの言い分を認めてくれたようだ。少し考え込んだ義勇は腰を上げ扉を開けた。
「錆兎。少しいいか」
 廊下をちょうど通りかかった錆兎が少し驚きながらも頷き、カナエと義勇のいる部屋へと足を踏み入れた。
 義手を使うようになってかなり経つが、今ではもう日常生活など全く困るところがない。稽古ですら隊士を負かすくらいである。
「炭治郎の生家付近で探したいものがある。あそこは俺の担当地区だから俺が行くことも考えたが……お前に頼みたい」
 護衛どころかそもそもカナエを行かせるつもりすらなかったかのような言い草だった。
 カナエが行きたいと言ったのだからまさかそんなことはないはずだが、絶対とはいえないのが義勇である。
「………。頼みではなく指令だろう。いい加減俺にも何かやらせろと直談判しに行くところだった。謹んでお受けしよう」
 カナエもしのぶも不在が増え、当然だが錆兎も気づいていたらしい。頼ってくれてありがとう、と小さく笑みを見せてから、錆兎は続きを促した。
「青い彼岸花といわれる花を探してほしい。炭治郎の記憶では咲いてるのを見たらしいが……」
「小さい頃に見たらしいんだけど、一度きりで」
 その後はどこを探してもなかった。そもそもが彼岸花であったかも定かではないが、だからこそ確認のために探しに行くつもりである。カナエが炭治郎から聞いた話を錆兎にも伝えた。
「雲を掴むような話だな。何か特殊な生態なんだろうが……この件は誰が知ってる?」
「彼岸花については炭治郎としのぶもだ」
「………。そうか、俺も聞けたら直接炭治郎に聞いてみる」
 まだ何か言っていないことがあるのか。そんな楽しげな笑みを錆兎が漏らした。
 言えないことがあるのは重々理解しており、それが多いほど何か画策していることがあるということ。蚊帳の外なのは寂しいが、秘密裏に動く任務が多いほど鬼を滅殺できる可能性が上がる。錆兎も理解しているのだ。
「しかし、カナエは他の任務もあるだろう。日中不在も多いし。それなら俺一人でも、」
「彼岸花もその任務の一環だ」
「……成程。わかった、任せろ」
 詳しく話さずとも錆兎は義勇の特務を理解したようで、深くは聞かずに男らしい返事をした。ぎゅ、と義勇の眉間に皺が寄った。
 昔しのぶが教えてくれたことがある。錆兎を格好良いと感じて悶えている時の顔だ。久しぶりに見た。
「義勇くん、地図を用意するから印をお願いできる? アオイに引き継ぎしたらすぐにでも発つわ」
「わかった」
 眠っている炭治郎に書かせるよりは、大まかにでも覚えている義勇に聞けばある程度はわかるだろう。どうせ探して回るのだからある程度で構わないのだ。あとは炭治郎に一室借りられないかを確認すれば準備は整う。
「刀は持っていけ」
 錆兎と打合せを始めようと席についた時、部屋を出ていこうとした義勇が一言口にした。錆兎に向かって言ったらしい。
「……俺は隊士じゃないぞ」
「隊士だったことがある。……責任は取る」
 錆兎へ目を向けた義勇が小さく笑みを見せてから部屋を出ていった。
 控えめだが久しぶりに見た笑顔だった。
 呼吸を使えないカナエは藤の花の香り袋も香炉も持っていくつもりだが、錆兎が日輪刀を持っていてくれるなら非常に心強い。顔を見上げると錆兎は眉間に皺をぎゅっと寄せ、先程の義勇と似たような顔を晒していた。
「あいつ男らし過ぎるぞ」
「錆兎くんも思考が義勇くんと同じねえ」
 同い年の尊敬し合う関係は昔と全く変わっていない。微笑ましくてついカナエも笑ってしまった。

「じゃあしのぶ、アオイも、行ってくるから」
「は、はい。精一杯頑張ります。お気をつけて」
 医学の勉強のためカナエは蝶屋敷を空けることになり、錆兎は護衛として日輪刀を持っていくことになった。夜に出歩くつもりはないし、鬼除けも持っていくつもりだが万が一を考えてのことだ。産屋敷の古い知り合いの気難しい方に弟子入りするので、帰る見込みは立っていない。だが一時帰宅なら問題なくできるので、何かあれば鴉を飛ばすようアオイに言い含め、やるべきことを果たしてくることになった。
 ――というのが、アオイたち蝶屋敷常駐組とカナヲに伝えた言い分である。
 が、まあ、この言い分を使えたのはアオイのおかげだ。
 しのぶはカナエとともに珠世のところで研究に励むようになっており、昼間の不在が多くなっている。アオイはカナエが常駐になってから医学を学んでいたので問題なく任せられるが、血鬼術の治療だけは実際にさせたことがない。難色を示した錆兎がやはり一人で行くと言い、それなら自分が一人で行くとカナエが言えば少し口論のようになった。思わぬ二人の言い合いに何事かと慌てたアオイが、表情を強張らせつつも二人とも行けと言ってくれたのである。勿論真実は伏せて伝えてあるので、アオイもまた口論の本当の理由を知らないままだ。
 不安げにしつつも気を張って大丈夫だと送り出そうとするアオイにカナエは嬉しくなった。本当に誰もいなくなってしまった時の予行演習として考えてくれればいいと伝えると、逆に不安がらせてしまったけれど。
 アオイの負担が増えるのは申し訳ないが、こうしてやる気になってくれているのだからカナエは任せることにしたのだ。任務終わりにはしのぶも蝶屋敷へ一旦は戻ってくるし、炭治郎が入院しているのだから屋敷に戻る必要はないのではないかと提案すると、義勇も蝶屋敷へ泊まることを頷いてくれた。
 柱も皆今までどおり手伝いに来てくれるので、問題はアオイがきちんと指示を上官に出せるかどうかである。義勇や悲鳴嶼相手でもまだ少し遠慮があるので、二人を通して頼むほうがすんなり進むかもしれないと助言はしておいた。
 生家の一部屋を借りることは炭治郎も了承してくれたし、こちらはどうにかなるだろう。付近の住人から何か言われても対応できるよう、一応炭治郎に一筆貰ってある。遠縁の親戚とでも言っておくつもりだ。
「皆に頼ればいいのよ。私も沢山助けてもらったもの。ねえしのぶ」
「そうね、悲鳴嶼さんも世話焼きだし……助けてと言ったら皆助けてくれます」
「あ、わ、私も、頑張って手伝います」
 カナヲの控えめな声が聞こえ、カナエはしのぶと顔を見合わせてからアオイも巻き込んでカナヲを抱き締めた。
 カナヲは隊士だから夜の間はいない。まだまだできないことも多いが、やり遂げようと頑張る姿も見てきた。その気持ちはアオイにも伝わっているだろう。
「じゃ、行ってきます!」
 皆に手を振って蝶屋敷を背に、カナエと錆兎は連れ立って歩き出した。

「冨岡さんは錆兎さんのものをそのまま使うと仰ったし、特に準備するものはないと」
「体格も同じくらいですし問題ないでしょう。私も少し調べ物がありますから、アオイ、カナヲ、すみませんが頼みますね」
「は、はい!」
「じゃあ私たち、お布団干してきます!」
 賑やかに駆け出した三人娘を見送り、難しい顔をして帳面を見ながらぶつぶつと呟き歩くアオイと、それを心配そうに見ながらついていくカナヲ。皆の背中を眺めながら、しのぶは私室へ一人足を向けた。
 珠世へのところは毎日通っているわけではなかったが、カナエが行けない以上しのぶがその分向かうことにしようと考えていた。アオイの負担を考えると減らしたほうがいいとも思うが、研究は手を止めるわけにはいかない。錆兎の代わりを務めようとしている義勇は、せめて機能回復訓練を手伝うと言っていた。柱にそこまでさせることをアオイは恐縮するだろうが、二人で落とし所を決めてくれればいい。
 はあ。
 部屋に着いて戸を閉めた瞬間、しのぶは大きな溜息を吐き出した。
 蝶屋敷に滞在。義勇が。常駐の錆兎が不在にするのだからそれは確かに有難いだろう。少なくとも旧知であるアオイには。他の柱よりは義勇や悲鳴嶼のほうが慣れているのだから。
 ――気まずい。
 そう、しのぶが気まずいだけだ。
 義勇とはあれから二人きりで会話をするようなことがなく、むしろ普段より話さないようになっていた。
 あれとはあれのことである。
 恐らくは他意などなかっただろう義勇の言葉に思わず固まってしまったあの日以降、しのぶは今までのように話しかけたりしなかった。
 別に避けているわけではない。今までは暇がなかったのだ。
 ――お前には誤解されたくない。
 お前には。
 普段寡黙なくせに、何でそんな言葉を付け足してしまったのか理解に苦しむ。他の隊士にも勘違いさせていないか不安になり、勢い良く首を振って思考を誤魔化した。
 そんな言葉を聞いてしまったせいで、しのぶは反応してしまった。気づいてしまったのだ。義勇の言葉でどんな気持ちになったかを自覚してしまった。
 こんな感情は、鬼狩りに不要なものなのに。
 あんな、まるで自分だけが特別であるかのような義勇の言葉に、しのぶは一瞬でも喜んでしまったことを自覚した。
 しのぶは鬼狩りだ。どれだけ力が弱くても、柱にまでなった鬼狩りなのである。
 悪鬼滅殺を果たすまで、己の女としての生活など必要ないのだ。だから義勇への気持ちを自覚しても伝えるつもりはない。
 そういうのはすべてカナエがすればいい。全部胸の奥底に押し込めるつもりだ。
 とはいえ相手は昔馴染み。ぼろを出さないために、できればあまり関わりたくはなかったのだ。
 そんな自分の気持ちなどお構いなしにやらなければならないことは増えていく。こんな浮ついた気持ちに構う暇はないのである。
 今は珠世のところに行くことが多いのだし、義勇ともそう二人になることはないだろう。そう願ってしのぶは気を取り直した。

*

「あー……もしかして聞いた?」
 黙っていたのに。
 上弦の伍との戦闘後の検診に来た宇髄を引き止め、無理やり私室らしき部屋に引っ張り込んできた冨岡に適当な軽口を言ってやったのだが、相変わらずの表情の見えない顔で宇髄を見つめた。
 そして地味に小さな声で、竈門禰豆子の話題を挙げたのである。
 竈門炭治郎本人から聞いたらしいが、馬鹿正直な奴だ。黙っていれば冨岡も知らなかっただろうに。
「何故言わない」
「んー、まあそこはな、治まったし言わなくていいと判断したわ」
 無の顔が眉根を寄せ、不満を抱いたことがわかった。そんな地味な反応しかできないわけじゃあるまいに、冨岡は大抵いつも表情筋を動かさない。動くのは昔馴染みの前でだけだ。
「ふざけてるのか」
「俺がふざけてるなら二年前のお前はもっとふざけてるな」
 鬼を見逃したり匿ったり。裁判での竈門禰豆子を知る前にしでかしているあたりが派手にふざけていると思う。いくら考えてもこれだけは誰にも真似などできないだろう。
「予想してきたことだろ。不死川の一件ですでに我慢をしてるってのはわかってた。自分自身の怪我と飢餓、多量の血の匂い。これらは全部竈門禰豆子の我慢で襲わないだけだ。鬼化が進んで我を忘れれば、人を襲うなんてのはむしろ当然のことだ。わかってんだよそんくらい」
「尚更報告しない理由がわからない」
 確かに。今の宇髄の言い方は、わかっていたなら報告するものだと言っているようにも捉えられる。案外せっかちな奴だ。
「まあ聞け。いつか人を襲うと予想できたわけだが、竈門禰豆子は実際には襲っちゃいねえ。危なかったがな。兄貴が必死に抑え込んで、その後はまるで毒気が抜けたように過ごしてた」
 子守唄で無理やり眠らせてからその後。瀕死の兄の危機にでも気づいて起きたのか、単に回復したから起きたのかは知らないが。
「あいつが食欲を抑え込んだのは事実、俺が助かったのも事実。まあ……恩返しみてえなもんだな。命の恩人だし」
 危なっかしいのは喝を入れておいてもいいだろう。遊郭の惨状は最悪のものだったし、一般人の被害も相当だった。煉獄のようにはできなかったことが悔やまれるが。
「あとはまあ……困るんだよ」
「………?」
「お前と悲鳴嶼さんに切腹されて困るのは鬼殺隊なんだよ」
 何が悲しくて殉死ですらない理由で、最高戦力の二人を失わなければならないのか。
 竈門禰豆子が人を襲った時、少なくとも四つの命が消えてなくなる。そのなくなる命のうち二つは、頭一つも二つも飛び抜けている戦力。柱になって尚遠く感じる二人である。
 悲鳴嶼と冨岡の鍛錬に参加し、宇髄に力がついたことは事実。今回で少しも身につけられていなかったのではないかと考えてしまっていたが、柱の能力向上に一役買った形の二人にも、恩を感じているのだ。
「とにかくよ、女房は助かったし俺も救われた。だから黙ってることにした。……私情だよ、完全に。あいつらは派手にやる奴らだ。見る目あるぜ、お前」
「炭治郎は成り行きだったしそれ以外も知らん」
「冷てえ言い方ぁ」
 冷たく聞こえるだけで、本人自体は情け深いと悲鳴嶼が散々言っているので、宇髄もそれはわかっているが。
 まあ、恩があるなど本人に向かって言うのは少し癪だったので、言わないことにしておいたが。