いざ遊郭へ

「あーん、悲鳴嶼さん、冨岡さーん! 助けてくださーい!」
「音柱様! い、行けません私は! 蝶屋敷の常駐なので、」
「柱呼ぶあたりちゃっかりしてやがんなあ。いや、お前隊士だろ? 女手がいるんだよ、ちょっくら頼むわ、痛え!」
 音柱の頭を刀の柄で殴ったのは、ちょうど蝶屋敷へ顔を出した冨岡だった。音柱に群がっていた三人娘のうち二人が慌てたように冨岡へ泣きついて、カナヲは音柱の服を引っ張ったままおろおろしていた。
「暴漢か?」
「誰が暴漢だ、天元様だわ!」
 どうしよう。音柱に担ぎ上げられたままアオイは混乱していた。
 任務にちょうど女手がいると言った音柱は、アオイとなほを使うために連れていこうとしていた。騒いで暴れた二人に気がついた三人が駆け寄ってきて、音柱がもみくちゃになっていたところである。
「任務だよ任務。手伝いくらいいいだろ、俺も手伝ってんだしよ」
「それは鬼が出るのか」
「当たり前だろ、任務だぞ」
 鬼が出なければ任務にならないだろうと呆れた音柱が呟いたが、冨岡は首を縦には振らなかった。
「却下だ。そもそもなほは隊士ですらない」
「そうなの? しゃあねえな、なら神崎は借りてもいいだろ? 隊士なんだしよ」
「駄目だ」
「いや、こっちも仕事だからな? 何でなんだよ、怪我でもしてんの? そうは見えねえけど」
「ひゃあ!」
 ばしん、と強く尻を叩かれ、アオイは思わず悲鳴を上げた。
 カナエが本部に掛け合いアオイへの指令が来なくなったのは随分前だが、彼女が柱を辞してからもそれは続いていた。もはや隊士であることも忘れられていそうなくらい、アオイは任務と関わりが全くなかったのである。
「神崎は蝶屋敷の仕事がある」
「まあ確かに人手は全然足りてねえけどさあ。じゃあ代わりの隊士紹介してくれよ」
 カナヲには先程指令が来ていたと口にして、音柱は掴まれた裾から手を離させた。
 宇髄が求めているのは恐らく駆け出しではなく、もっと任務に慣れた中堅の隊士だと思われるが。
 鬼殺隊にはそもそも女性隊士自体の人数が少なく、紹介できるほど多くはない。特異体質でもない限り、女は男に力では勝てない。女より強い男ですら鬼に次々と殺されていくのだから、残っている数は知れているのだ。柱まで上り詰める者が稀なのである。過去に一人いたし、現在は二人もいるけれど。
 冨岡をそれなりに知っているアオイからすれば、その数少ない女隊士の知り合いが蝶屋敷以外で彼にいるのかどうか怪しいところである。
「いない。しのぶにばれるから早く帰れ」
「騒いだのはこいつらなんだよ! 帰るのは隊士見繕ってからだ!」
「だったら俺たちが行きます!」
 騒いでいた一角とは別の場所から別の声が聞こえ、アオイも含めた全員が目を向けた。
 片手を真っ直ぐ挙げた炭治郎と、その後ろで怯えている善逸、そして猪頭越しにもわくわくしているのがわかる伊之助が現れ、ずんずんと音柱の前へと仁王立ちした。
「お前ら男じゃねえか」
「女の子じゃないと駄目な理由は何ですか!?」
「俺は今凄え元気だぜ!」
「柱だからって女の子侍らせて任務なんて許されるわけないだろうが!」
「何で俺がこんなちんちくりん共侍らせなきゃなんねえんだよ!」
「きゃあ!」
「何の騒ぎですか?」
 憤慨した音柱からぽいと投げ捨てられたアオイはまたも悲鳴を上げてしまったが、地面に尻餅をつく前に冨岡が抱えてくれたおかげで事なきを得た。
 のだが、新たに聞こえた声に冨岡すら肩がぴくりと反応し、冷えた声にアオイは思わず彼の首にしがみついた。恐らく顔色は真っ青だったのではないだろうか。
 炭治郎たちの後に現れたのはしのぶだ。冨岡がばれる前に帰れと言うくらい、しのぶは怒ると非常に恐いのだ。
 しのぶの目がアオイと冨岡に向けられた時、怒りより先に一瞬だけ驚いたように目を丸くしていたが。
「げ。いや別に、潜入任務に連れてく隊士見繕ってただけ。こいつら連れてくから」
「……アオイの顔色が悪いですが、他に何が?」
 いつも以上に恐い気がする。動けば機嫌を更に損ねてしまうのではないかと感じて、アオイは冨岡に抱えられしがみついたまま動けなかった。
「結局女手じゃなくていいのか」
「よかねえよ、けどいねえんだろ? なら仕方ねえ、無理やり着飾って何とかするわ。そういや使っていいって許可も得てたしな」
「着飾る?」
 その場の全員が疑問符を抱いた時、音柱は当然だろうと頷いた。
 潜入任務に女隊士がいる理由。それはごく単純で全員が驚くような理由だった。
「任務先遊郭だし。お前ら男ってばれねえようにやれよ」
「――何ですって?」
しのぶの周りの空気がひりつき、アオイの膝裏に通された冨岡の腕に、先程よりも微妙に力が篭もった。
 眉根を寄せたまましのぶは何やら考え込み、やがて音柱へ顔を上げた。
「三人とも男の子ですしすぐばれるでしょう。だったら私が行きます」
「えっ」
 しのぶを除いた全員の驚いた声が辺りに響く。女手がいるのだろうと不審げに音柱を見上げているが、音柱自身は何とも複雑そうだ。冨岡は何を考えているのかさっぱりわからない顔でしのぶを見つめていた。近くからよく見れば眉間に皺が寄っているので、しのぶの提案には彼も少し複雑な気分なのだろう。
「いやまあそうだけど、柱二人もいるかと言われるとな……十二鬼月相手ならともかく。そもそもお前遊郭がどんなところかわかってんの?」
「なっ……、そのくらい知ってます!」
 音柱の問いかけに少々頬を赤くしたしのぶは音柱に憤慨し、その後冨岡にも念を押すように知っていると二度口にした。知らない可能性を疑っていたのかどうかは冨岡にしかわからないが、しのぶがそう思ったのならそうかもしれない、とアオイは明後日の方向へ思考が飛んでしまった。
「いえ! しのぶさんも忙しいだろうし、俺たちちょうど空いてるので!」
 溌剌と答えた炭治郎にじろりと目を向けたしのぶに、炭治郎たちはびくりと肩を震わせた。
 やはり任務に向かえるのはアオイしかいないことがよくわかる騒ぎだった。
 アオイが最終選別を受けたのはもう何年も前で、指令が来なくなったのも隊士になってすぐだった。刀すら怖くて持てなくなったのに、今更任務で足を引っ張らない自信がなかった。
 しがみついて握り締めた冨岡の羽織に更に皺が寄るのが視界に映っていた。
 たった一言アオイが行くと言えば解決するのに、アオイにはそれができない。思い出すだけで、想像だけで息苦しくなってしまっていた。
「……そうですか。ではお三方にお願いしますね」
 ぐ、とアオイを抱え上げた腕に力が篭もったように感じると同時に、しのぶの声が辺りに響いた。元気な声が答えるように返事をし、それを聞いたしのぶは屋敷内へと入っていった。
「機嫌悪ぅ。冨岡よお、あいつの機嫌くらい取っとけよな」
「来たばかりなんだが」
「しのぶ様の機嫌が悪いのは音柱様のせいだと思いますぅ」
「何ぃ?」
 音柱のあくどい顔に三人娘は悲鳴を上げてしのぶの後を追うように駆けていった。その様子を眺めてから音柱は溜息を吐いた。
 普段蝶屋敷の面々とも仲は悪くなかったのに、やはり任務となると柱は違う。申し訳なくて顔を上げられなかった。
「たく、お前ら使えなかったら殴るからな。じゃあな!」
 冨岡の背中をばしんと叩き、音柱は炭治郎たちを連れて蝶屋敷を去っていった。大きな安堵の息がつい口から飛び出てしまったが、アオイの代わりに行ってしまった三人が心配だった。
 無事に帰って来てほしい。
 冨岡にしがみついていたアオイの足裏が地面に着地し、ようやく握り締めていた羽織を離して礼と謝罪とともに冨岡へ深々と頭を下げた。皺になってしまった羽織についても謝ったのだが、それについては何だかどうでもよさそうな返事をされてしまった。
 誓って言うが、冨岡に抱きかかえられたりするのはなほたち幼い三人娘だけである。彼女たちですら頻度は多くない。アオイなど冨岡に抱えられるどころか接触したことすらなかった。常駐組の錆兎ですら三人娘としか接触していない。
 しかし。ちらりと蝶屋敷へ足を踏み入れる冨岡の背中を見上げた。
 びくともしなかったなあ。
 音柱からかなりきつく背中を叩かれていたように感じたのだが、冨岡の体幹はぶれることがなかった。片腕で抱えられていたアオイは振動すら感じなかったのである。
 柱である所以を垣間見たような気分で興味深かった。やはり上り詰める人は根本から違う。一応アオイも稽古には参加するのだが、ついていけないことも多かった。あの稽古に耐えきれる者たちが、きっと階級も上がっていく者たちなのだろう。

「水柱、ずーっとアオイちゃん抱えてたな」
「下ろすの忘れてたんじゃねえか?」
「お前、柱馬鹿にし過ぎだろ……」
 複雑そうな顔で呟いた黄色頭に猪頭が答え、更に黄色が突っ込みを入れる。
 猪頭の一言は割りと確信をついていると思う。聞いた当初こそ蝶屋敷の奴らが言う天然ドジっ子扱いに目がやられているのではないかと疑ったものだが、これが意外と的を射ていることに気づいた。気づきたくはなかったが。
 自分よりも強い男が抜け作だったなど、どういう気持ちで相手をすればいいのかわからなくなるだろう。正直知りたくなかったというのが本音である。
 胡蝶も悲鳴嶼もどこかしらずれているのでもう慣れたが。
「それも有り得るが。まあ、今のは俺がいたからだろうな」
 途中神崎の様子がおかしくなったことに宇髄は気づいたが、その時トラウマを抱える隊士が一定数いるという噂を聞いたことを思い出したのだ。
 鬼に襲われた、家族を殺された。そういった恐怖を克服することができず、任務に出られなくなった隊士がいる。噂に聞いただけであり、宇髄自身はそのような者を特別気にかけるほど暇ではなかった。
 弱くては困る。世代を追うごとに弱くなる鬼殺隊では駄目だ。確かに柱は強くてなんぼだが、柱とその他大勢の力の差が開き過ぎているのも問題だと思っていたし、戦えない者が隊士として所属していては困るとも思っていた。
 隊士というのはそこいらの町人を助けなければならないわけで、任務に行けない者がいては邪魔なだけだ。だからその噂を聞いた時も、鬼殺隊から離れて生きていけばいいと思ったのだ。
 まあ確かに、よく考えればおかしな話だった。
 隊服を着ているにも関わらず蝶屋敷常駐。冨岡の元継子であるあの男ですら、隊士を辞した後は袴を着ている。隊服を纏うことは一度もなかった。
 蝶屋敷で世話になり、手伝ってやり、それなりに話すこともあった宇髄としては、少し悪いことをしたと神崎へ申し訳なさを感じた。
 任務に出ないなら隊服を脱げばいいと思うが、神崎にも何か思うことがあるのかもしれない。少しばかり考える余地を持つことにした。
「……蝶屋敷常駐の奴を連れてかれるわけにはいかなかったんだろ。治療に関しちゃ錆兎よりも神崎が詳しい。胡蝶は任務中いねえし、最近姉のほうも昼間不在にしてる時あるからな」
「わかってるんなら何でアオイさんを、」
「うるせえな。下っ端の隊士なんかすぐ鬼にやられて死んでくってのに、それが女なら尚更だ。蝶屋敷以外に目ぼしい女隊士がいねえんだよ」
 どこかで見つけたとしても階級は低いだろうし、使えるかどうかも怪しいものだ。本来宇髄は栗花落カナヲを連れていこうとしていたのだが、指令が来たせいでああなってしまったのである。
 まあ、神崎はとばっちりだ。あとで謝ることにした。
「この話は終いだ。仕事の話をするぜ」
 代わりに連れてきたこの三馬鹿がどこまで使えるか。
 水柱直々に鍛えた秘蔵っ子とやらを、試してみるのも悪くないと思ったのである。

*

「へえ、良いのが来たわね。あんたも喰ってやるのが楽しみだわ!」
 帯が蛇のように蠢いている女鬼が屋根にいる。そして瓦礫の中に男鬼。
 屋根の上には血を流して倒れている伊之助、瓦礫の下敷きになっている善逸がいるようだった。そして、男鬼のそばに炭治郎が俯いて座り込んでいて、宇髄は地面に倒れているのが見えた。
 しのぶは眉根を寄せて女鬼の目に刻まれた文字を確認し、ふと表情を緩めて口を開いた。
「ふむ、上弦の伍ですか。成程成程、性悪そうな顔です」
「――はあ?」
「うんうん、人を大量に喰っていますね。腐ったドブに流れる汚泥のような悪臭がします」
 救いようのない醜い鬼。
 ここに来るまでにも見てきた惨状に、しのぶの腸は煮えくり返っていた。あまりの怒りと憎悪につい笑みが湧くほどである。
「お前、このアタシに腐ったドブですって?」
「読解力はあるようですね、きちんと伝わっていてよかったです」
 しのぶの言葉にわかりやすく憤慨した女鬼は、あろうことか屋根の上で地団駄を踏み始めた。なんて品のない行動なのだろう。
「あんた嫌いだわ。喰ってやろうと思ったけどいらない」
「奇遇ですねえ。私もお前なんか大嫌いです」
「――ムカつく! 脳みそまでぐちゃぐちゃにしてからそこらじゅうにばら撒いてやる!」
「あら、食べ方すら鬼は忘れてしまうんですね、可哀想に。下品な女」
「―――!」
 言葉も出ないほど頭にきているらしい。しのぶへ一斉に帯が向かってくる。
 階級自体は下から数えたほうが早くても、伊之助も善逸も炭治郎も、能力自体は上位の階級に匹敵する強さになっていた。そこいらの隊士の中では骨のある彼らである。上弦を相手取り息があるほどの。
「何だ、お前まだ生きてんのか。運の良い奴だなあ」
 帯を躱しながらしのぶの耳は男の声を捉えた。
 宇髄の声でも炭治郎の声でもない。男鬼が誰かと話しているらしい。ちらりと視線を向けると、座り込んでいた炭治郎と男鬼が向かい合っているのが見えた。
「ちょろちょろ鬱陶しいわね!」
「そっちこそ、大人しくしていれば地べたをのたうち回る程度の毒で殺してあげますよ」
 救援要請に現れた鴉が言うには、二体の鬼はどちらも上弦の伍だという。本体がどちらということではなく、一心同体のようなものなのだろう。となれば、どちらかを殺せばいいというものでもなさそうだ。
「っ!」
「ハッ! 威勢が良いのは口だけなの!? こんな軽い攻撃でアタシの帯が傷つくわけないでしょ!」
 帯の攻撃は速い。避けきれなかった帯に腕から血が飛び散った。しのぶの刀で薙ぎ払おうとしても、やはり突き以外は役に立たない。
「! あいつ、まだ! ちょっと嘘でしょ! お兄ちゃん!」
 女鬼の叫びにしのぶの意識もそちらへ向かう。
 炭治郎が倒れ込んだ男鬼に刀を押し付け、頸を斬ろうとしているのが見えた。
「頸を斬れ! 二体ともだ!」
 聞き覚えのある声がしのぶへ倒し方を伝えてくる。
 頸を斬る。しのぶができないことをしなければ上弦の伍は倒せないのか。日輪刀の効かなかった上弦の弐といい、上弦の鬼というのはどいつもこいつもこんなのばかりか。
 動きを止めるだけでは駄目だ。喉元に毒を打ち込み腐らせて頸を落とす。しのぶは屋根を踏み込んで女鬼の懐へ飛び込んだ。
「そんな刀で斬れるわけないわ!」
「斬るんじゃないわよ」
 切っ先を突き刺した瞬間、女鬼の頸が柔らかい帯状に変化した。
 斬るのではなく突くのだ。刃を突き立てても頸はぐにゃりと曲がっていく。腹が立った。
「はっ、」
 女鬼の顔色が変わる。帯状の頸がびり、と破れるような音とともに突きつけた切っ先を飲み込んでいく。
 頸が斬れないのは、振るう刀が重いから。斬れるだけの筋力がないから。
 毒を使って腐り落とす。上弦に効くかどうかは賭けだったけれど、それよりも確実に頸を落とす方法にしのぶは気づいたのだ。
 限界まで重さを削ぎ落としたしのぶの刀なら。これだけ薄い頸ならば、切っ先を真横に動かせばびり、と布が千切れていく感覚がした。
「離れなさいよ、糞女!」
 女鬼の帯が一斉にしのぶへと向かってくる。
 どんな攻撃が襲って来ようとも、しのぶはこの頸を落とすまで女鬼を逃がしはしない。
 直後、地面側から爆発でもしたかのような轟音が響き、しのぶへ向かってきたはずの帯の攻撃を斬りつけた者がいた。
「ああああ!」
 瓦礫の下敷きになっていた善逸が飛び出し、助太刀に入ってくれたらしい。屋根に転がっていたはずの伊之助が、しのぶが突き立てた頸に空いた穴に刀を突き刺した。
「慎みもなく口も悪い女は嫌われますよ」
「うそ、嘘嘘! お兄ちゃぁん!」
 歯を食いしばり、しのぶは伊之助と反対側の方向へ刀を引き抜き、伊之助もまた勢い良く刀を一閃した。女鬼の頸が空を舞うのと同時に、男鬼の頸が飛んだのが視界に映った。

「遅くなってすみません」
「いやー、凄え助かったわ。俺絶対死んだと思ったし」
「それは禰豆子さんのおかげでしょう」
 竈門禰豆子の解毒を見ていた胡蝶は目を剥いていたわけだが。
 あれほど鬼化が進んでいたくせに、今はすっかり人畜無害のような顔をしていた。宇髄としては判断に困るような状況だったが、命を救われたことは事実である。
「しかし、よく斬れたな。毒でどうにかするかと思ったんだが」
「私もそうしようと考えてましたよ」
 竈門たち三人の応急処置を終わらせ、泣きじゃくる須磨を宥めつつ隠を待っているところだ。
 大怪我に違いはないのだが、五体満足でしっかり帰還できるとは思っていなかった。三人も無事復帰できるくらい全快するといいが、とにかく疲れた、と宇髄は大きく息を吐き出した。
「でも、……頸を斬るってあんな感じなんですかねえ」
「………」
 初めて頸を斬ったのか。
 そういえばそうだ。救援に来たのが胡蝶であることに気づき、頸が斬れないことをわかっていて宇髄は叫んだのだ。
 斬れなかろうと、こいつはどうにかして頸と胴を離すだろうと考えていたから叫んだわけだが。
 どこか満足げな胡蝶の横顔が空を見上げていた。
「……二人のことは悪かったよ」
「アオイとなほにはご自分で謝ってくださいね」
「おー。冨岡にも言っとくわ」