那田蜘蛛山にて
人に仇なす鬼は斬れ。
不思議な言葉だとカナヲは最初から思っていた。
夜毎駆け回り朝日を背にして帰ってくる義勇が、人を喰う鬼を殺す人の中でもひと際強い人であることを、屋敷の掃除や家事をしていた隠という人は教えてくれた。
昼間は座りながら目を瞑っていたり一人体を動かしていたり、ほんのたまにカナヲを呼んで将棋盤の前に座ったり、話すことはあまりない。カナヲに手を上げる人間でないことは理解はしていたし、呼ばれなければカナヲは何もできないでいたが、義勇は物静かで特定の人としか話さないのだと聞いた。
何かをすれば機嫌を損ねて、死にかけるまで殴ってくる親がカナヲからしたいことを口にするのをやめさせてしまった。
それを知らないはずの義勇は、カナヲが何も言わず静かに部屋の隅に座り、任務から帰ってくる義勇を待つために玄関先で転げていても、何も言わずただ抱き上げて布団に運んでくれていた。
義勇が道場や庭でしていることは稽古で、鬼を斬るための鍛錬をしているのだと隠は言った。道場の隅、縁側でそれを眺めながらただ義勇の動きをずっと見ていた。やらせてみても良いのでは、と隠が言ったことで、カナヲは木刀を使わない基礎訓練というものを教わることになった。
体力をつけ外を走り、腕力を鍛える鍛錬を教えられたが、義勇が木刀を使ってやっていることは教えてはくれなかった。
これは見るものなのだと思い、カナヲは義勇が木刀を振るって綺麗な水を繰り出している間は目を逸らさずに見入っていた。
呼吸の仕方、腕の向き、体の動きを見ていたカナヲは、ある日義勇が任務で外に出ている時に、義勇が使う木刀を持って庭に立てられた稽古台へと向き直った。
見ていた通りに腕を振る。義勇のように綺麗な水とは違う、薄いような弱いような水がカナヲの持つ木刀から表れた。
ずっとそうして気づかれないように技を盗んで練習していた頃のことだ。いつも疲れていても大きな怪我をしていなかった義勇が、ここではなく蝶屋敷へと運ばれたと鴉から連絡を貰ったと隠は言った。
蝶屋敷はいつも怪我をした隊士が集まり、動けない人や泣いている声がひしめいていた。その隊士の手当をしたり薬を準備したりと手伝いをし始めてしばらく経った頃。隠に連れられてやってきたカナヲは、血塗れで寝台に横たわり、目を瞑っている義勇を目にした。
血が足りない。肋骨と肋が折れている。額の血が止まらない。
何度も聞いていたような診察の言葉が義勇の体を診て発されていることに気づくと、カナヲは頭が真っ白になった。
隣の寝台にはカナヲに名をくれたカナエが眠っている。泣きそうな顔で血に濡れながら治療を施そうとするしのぶとアオイを見つめ、隠に腕を引かれて邪魔になるからと別室へ連れて行かれた。
命に別状はないと聞いてから、義勇の寝台の隣へ椅子を用意されたカナヲは、彼が起きるまでずっとそばを離れなかった。
カナヲが避けたがっていた死が義勇の間近に迫っているようで気が気ではなかった。息をしていても目が開くのか不安で、死んでしまうのではないかと初めて恐ろしくなったのだ。
カナヲは死にたいわけではない。死を避けるために動きを観察し、致命傷を避けられるだけの目を身に着けていた。目を覚まして快復に向かう義勇に安堵しながら、そのうちまた任務に出て帰りを待たなければならないのだと気がついた。つい最近まで安静にしていた義勇がカナヲを置いて任務に駆け出した時、カナヲは思わず引き止めたくて手を伸ばしていた。
止められなかった義勇は翌朝無事に帰ってきていたが、カナヲは鬼殺隊に入るためにあると聞く最終選別へと足を向けていた。
死にたくない。死んでほしくない。そう考えるようになったからカナヲは黙って選別を受け、七日後山を降りたのだ。
怒られるのが怖かった。ついに捨てられるのではないかとも思ったが、死ぬよりも怖いと思ったことがあったカナヲは我慢して屋敷へと戻ってきた。すでに任務から戻っていた義勇は、静かに縁側に腰を下ろしカナヲへ目を向け、先に食事と湯浴み、そして睡眠を取るよう口にしたのだった。
義勇は怒ることはなく、ただ最終選別がどんなものだったかを問いかけた。怪我はないか、怖くはなかったか、鬼は斬れたのか。どれにも返事をして顔を見ると、目を伏せた義勇はそうかと呟いた。そして隠から聞いたと言って、カナヲの型を見せるよう口にした。
義勇の刀は深い水の底を思わせるような青で、義勇の使う型を真似ればそうなると思っていた。鍛冶師に打たれた刀はカナヲが手にすると桃色に変わり、どうして青じゃないのだろうと不思議だった。
水の呼吸が適正ではないということを知ったのはもう少しだけ後だったが。
選別を突破し鬼殺隊士としての最初の仕事が始まる前、義勇はカナヲに肝に銘じるよう言い含めた。
人に仇なす鬼は斬れ。怪我をした隊士の手当をしてやれ。そして、死なずに帰ってこい。
カナヲの心情を深く追求せず、義勇は必要なことだけを聞かせてカナヲを送り出した。言われた通りのことをするためにカナヲは夜を駆けていった。
これまでの任務で、人を喰わない鬼に会ったことがない。
人に仇なす鬼。仇なさない鬼がいるのか。いつでも蝶屋敷は怪我をした隊士が沢山いるし、鬼に見逃されたなどと言う隊士もいなかった。どんな鬼が相手で逃げながらも立ち向かい、泣きそうになりながら鬼の頸を斬った、などと隊士が話していたことがある。義勇はどうしてそんな言い方をしたのだろうかと疑問を持ちはしたものの、関係ない、言われた通りにするだけだと思うことにした。そうすれば義勇は喜んでくれるだろうと。
鬼を連れて逃げる隊士の脳天に蹴りを入れる。
逃げるのを追いかけるより動きを止めればすぐに済むことを学習したカナヲは、隊士の声でカナヲとは反対側に走り出した鬼を奇妙に感じながら後を追った。
襲ってこない。何故? もしかしてあれが、人に仇なさない鬼なのか。どうなのだろう、鬼と目が合ったのにまだ襲われていない。カナヲから逃げるために走っていく。斬っては駄目なのか。どうしたら良いのかわからなくなった。
人に仇なす鬼は斬れ。言われた通りにしてきたカナヲは初めて目の前の鬼がその対象であるか判断を迷った。そして一羽の鴉が頭上で叫ぶ。伝令。
「……あなた、禰󠄀豆子?」
両名を拘束、本部へ連れ帰れ。拘束、捕縛。斬らなくて良い。鴉の言葉にカナヲは安堵した。斬る鬼ではなかった。間違えて頸を斬ってしまえば、義勇はきっと悲しんだだろう。間違えなくて良かった。
箱に入ろうとする禰󠄀豆子にそこが良いのかと問いかけながら、カナヲは隠に連れられていく二人を見送った。
*
軽々拘束された現在の状況を鑑みて、しのぶは唇を噛み締めた。
鬼を目の前にぼんやりと立っているものだから、手助けなど必要ないはずの冨岡の危機かと勇んで飛び込んだ。そうしたら冨岡本人がしのぶの攻撃を止めたのだ。
何故止めたのか、何を考えているのか。元より思考も感情も読み難い人ではあったが、ここまで妙な行動をすることなどなかった。
妹だという鬼を連れて逃げるよう隊士に促し、今度こそしのぶは表情に怒りを顕にした。そのまま鬼を追いかけようとしたところで冨岡はしのぶに技をかけて拘束した。体術使えるんじゃないの、と昔の様々なことを思い出して更に怒りが込み上げた。
「私に鬼を殺すための助言をくださったのはあなただったはずですが」
「………」
「黙りですか。隊律違反を犯している自覚ありますか? ……良いんですか。お館様からの指令は私たちが受けましたが、その前に出された救援要請に応えた隊士もいるはず。あなたに良く似た寡黙な隊士とか」
「………!」
隠を向かわせるから隊士を運ぶ間、安全を確保してほしい。そう鴉に言伝を頼んだのはしのぶだった。那田蜘蛛山で見かけた蝶飾りは間違いなくカナヲのもので、先に来ていた隊士の救援要請を受けたのだろうと判断したのだ。冨岡はそれを知らなかったようだが。
冨岡の纏う空気がほんの少し揺れて、わけのわからない行動をする彼が動揺したことに少々胸がすいた。だが。
「まだ庇うんですね、鬼を。何故ですか」
「……兄を庇った。だから見逃した。二年前だ」
「は?」
攻撃の意志がなくなったことを悟られたのか、冨岡はようやくしのぶを拘束していた腕を離した。稽古で打ちのめされたことはあっても今までこんな仕打ちをされたことがなかったが、それほどにあの二人を逃がしたかったのかと思うとそれも腹立たしい。
「二年間人を襲わなかったと聞いている。どんな鬼でも見逃すわけじゃない」
「当たり前です!」
そうでなければ柱など務められない。そうではない。鬼を見逃すこと自体が大問題だというのに。
「……人を襲わない鬼だからなんて、他の方は納得しません。説得できるくらいの話があるんですか」
「………」
冨岡がまた黙り込んだ時、羽音を立てて飛び回る鎹鴉が伝令を伝えた。竈門炭治郎、及び竈門禰豆子の拘束、本部への帰還。竹を噛んだ鬼とそれを匿う鬼殺隊士は、先程目の前で逃がされたあの二人のことだった。
「……お館様はご存じのようですから、説得していただくつもりかもしれませんが」
眉根を寄せて唇を尖らせ、子供のように不満を顕にしてしまっていたしのぶの顔を見て、冨岡は小さく首を傾げて何だと問いかけた。続きを促したようだが、しのぶはもう冨岡から何を言われても怒りが沸騰してしまっていた。
「何だじゃありませんよ! 隊律違反を犯して無事で済む保証があるんでしょうね」
「……怒ってるな」
「当たり前です!」
わざとやっているのかと思うくらい、神経を逆撫でするように指摘してくる冨岡に、しのぶはつい地団駄を踏みそうになった。普段ならば呆れはしてもここまで怒ることなどないのだが、鬼を見逃すなどというしのぶには許容できないことを、他でもない冨岡がしたことに混乱している自覚があった。
あなたが、どうしてこんなことを。思いきり睨みつけると冨岡は困ったようにしのぶを見つめ、小さく口を開いた。
「お館様は二人を連れてくるよう命じた。あいつらを庇うのは違反じゃない」
「庇ったのは伝令前でしたけど? ……まあ良いです、冨岡さんが悪びれていないことは良くわかりました」
刀を鞘に収め、夜明けを待って本部へと向かうために山を降りていく。蝶屋敷から連れてきた隠はすでに怪我人と問題の隊士と鬼を連れて行ったらしく、山に入ってくる事後処理隊を見送った。
「……すまない」
「何がですか」
近くを駆ける冨岡に憮然と答えると、逡巡するかのように時間をかけ、やがて声が聞こえてきた。
「……黙って、いたこと?」
「疑問符がつくのはいただけませんが、まあ良いでしょう。そうですね、せめて一言でも事前に教えてくれていれば」
「鬼を見逃したと言ってお前は納得しないだろう」
良く理解されている。しのぶが闘う理由は全て怒りから来ているのだ。頸を斬らなくても鬼を殺せると、しのぶは何をおいても証明するために心血を注いでいた。そのための助言をしてくれた人物の中には冨岡だっていたのだ。冨岡はしのぶの非力さを最初から馬鹿にせず聞いてくれた人物だったのに。
「しません。けど、せめて姉に言ってくれていれば。その様子だと言ってませんよね」
「………」
「まあ、それも過ぎた話です。皆さん絶対に許さないでしょうから、それとなく話を合わせてあげます」
冨岡一人では彼らを納得させることなど難しいだろう。カナエが異端だっただけで、鬼殺隊士など往々にして鬼は問答無用で頸を斬るものと考えている。仲良くなんてできるはずがない。
「……助かる」
「本当ですよ」
素直に礼を告げた冨岡に、しのぶはようやく溜飲が下がる気分を味わった。
*
しのぶは前回にも増して恐かったが、冨岡の意図を多少は理解したらしく本部では前回同様それとなく庇ってくれた。
伊黒は信じられないものを見るような目で木の上から頭の心配をされたが、事実と知ると今度はどう反応して良いかわからなかったのか、しばし固まって絶句していた。前回とは比べ物にならない優しさだった。
悲鳴嶼や煉獄、甘露寺などはそう反応も変わらない。しのぶも表面上は何事もなかったかのように普段通りの笑みを見せて、宇髄は面白いと言いながら派手にいけとそればかりを推す。箱を掲げて現れた不死川だけが不安だったのだが、試すために二、三度刀を箱に突き刺してしのぶに止められていた。今回炭治郎が頭突きを食らわせることにはならず、不死川が炭治郎の腹にひと蹴り食らわせて黙らせていたが。
一悶着あった庭での一場面も耀哉たちが現れると鳴りを潜め、鱗滝の手紙を聞いた後、皆表情が見えずとも困惑を滲ませていた。前回よりも怒りに身を任せることのない今回の不死川は、険しい表情を晒しつつ室内に上がり自身の稀血を禰󠄀豆子に浴びせていたし、伊黒は容赦なく炭治郎を地面へと押し付けて息を止めさせようとしていた。腕を掴むと驚いたように冨岡を見上げ、貴様が何故この二人を庇うのか、隊律違反を犯したことでどんな処罰があるかをわかっているのかと詰られた。怒っているのはわかっているが、どこか心配されているようにも思えて少しばかり嬉しくなってしまった。
そして蝶屋敷預かりとなったことで隠が炭治郎と禰󠄀豆子を運んでいき、柱合会議が終わった後は皆口を噤んでいた。その沈黙を打ち切るかのように伊黒が言う。
「柱一人と育手の腹と引き換えになるほどの奴とは思えん。あいつは俺の攻撃ともいえない押さえ込みを外せないような奴だ」
「……まさかそんなことまでしているとは思いませんでした」
刺々しいしのぶの口調に視線を向けると、眉間には皺が寄り怒りを抑えているような表情をしていた。甘露寺がはらはらとした面持ちでしのぶを眺めている。
「彼の顎を割ったのはカナヲさんだそうですよ」
「ぶふっ、さすが判断が早いねえ」
脳天に踵を落としたというが、そんな蹴りを冨岡は教えていない。しのぶからでも習ったのかと考えていると、怒りの静まっていないしのぶが冨岡へと笑みを向け、一度体術の練習に付き合ってもらったのだと口にした。
「カナヲさんに説明は?」
「言う必要はない」
禰豆子が前回同様人を襲わなければ、最後の闘いで炭治郎が人を襲わなければ、冨岡は腹を切るつもりはない。信じるに値する二人であることを冨岡はすでに知っているが、現時点で彼らの二人に対する印象は最悪だろう。だからこその質問なのだろうが、冨岡が前回の顛末を知らなかろうと言わないと考えている。
そんな話は知らぬまま、炭治郎たちの人柄に触れてほしいのだ。
*
「あの子がそうなの?」
蝶屋敷へと冨岡が顔を出した時、定期診察ついでに世間話の如くカナエは問いかけた。
いつか、そんな鬼が見つかるかもしれない。
そう冨岡が口にしたのは五年ほど前、もう随分昔のことだ。何を見たのか、知っているのか。はたまた信じているのか。読み切れない冨岡の思考を考えながら、カナエが望んでいる鬼の存在を仄めかすような言葉を口にしていた。
人に仇なす鬼。鬼という存在はすべからくそういうものだと隊士なら言うだろう。だからこそカナヲに言い聞かせていたという言葉を聞いた時も、カナエは彼が仲良くなれる鬼がいることを信じているのだと気づいたのだ。
「仲良くなれる鬼? 冨岡くんは知ってたの? ……腹を切るって、何?」
診察を終えてシャツを羽織る冨岡に頭を預けるように傾けると、驚いたのか少し身動ぎをしてカナエを窺うような気配を出した。
「しのぶに無理やり聞き出したの、様子がおかしかったから。あの子を怒らないでね、しのぶは話そうとしなかった」
シャツを掴んでそのまま話し始めると、冨岡は小さく息を吐いて黙り込んだ。
「私のことを否定しなかったのは、あの鬼の女の子を知ってたからなのね」
「見逃したのは二年前だ。鬼狩りとして失格だが」
「そんなことない」
カナエが背中に腕をまわして抱き着くと、今度こそ冨岡は動きを止めた。
日中は箱から出て来ず、中で眠っているという。腹は空かないのかと兄の少年に問いかけると、睡眠で空腹を補っているようだと推測を口にした。しっかりした子だったが、鬼になった頃から自我は幼児のようになってしまい、竹を噛んでいるせいもあり言葉を話すことがない。だが言葉の意味はわかっているし、幼い頃に戻ったようで素直に甘えてくれるのが嬉しい。そう笑う少年は穏やかで、どこにでもいそうな優しい少年だった。
カナエが鬼の妹に話しかけた時、少女は目を瞬かせてカナエの顔を覗き込んでいた。友人だという同室の少年たちは妹を構ってくれるのだといい、時折夜に外へ抜け出して花を手渡してくれる少年もいるという。まだ安静だと告げると少し照れたように目線を落とし、すみませんと呟くのだ。
「良い子だもの。人を襲わないなら斬る必要なんてない」
歩み寄れる何かがあるなら、闘わなくて済むのならそれで良いのだ。鬼狩りの仕事は人を助けることだが、人を喰っていない鬼を、襲う素振りのない鬼の頸まで落とす必要はない。カナエはそう思っている。
「でも、冨岡くんが命を懸けてるって聞いたら」
「鬼殺隊にいて命を懸けなかったことはない」
「そういうことじゃ、なくて……」
案外自身の命を軽く見ている節がある冨岡に、何と説明すべきかを考えた。
カナエが隊士を辞めた今は同僚ですらない。だが友人で恩人でもある冨岡の口から相談してほしかったことだ。
任務以外で、別の人の責任を負って命を懸けるなど。
「……切腹に関して言うことはない。俺より妹を気にかけてやれ。時折顔色が悪い」
何か悩んでいるのではないか。しのぶの様子をきちんと見てくれていることは嬉しいが、カナエは誰であろうと心配だった。しのぶの顔色のことはカナエも知っているが、今憤っているのは冨岡のことでもある。
「しのぶのこと良く見てくれてるのね」
「お前が頼むと言った」
「そう、……だったわ。ありがとう」
カナエから離れ隊服と羽織を持って診察室を出ていった冨岡を見送り、カナエはしばらく考えた。やがて男性相手に抱き着いてしまったことに思い至り一人頬を染めてしまう。カナエが頼むと言ったからしのぶの様子を気にかけていた。自分が言ったから? 何ともいえない気分になったカナエは、冨岡の切腹のことを悲しみもしたが、何だか急に恥ずかしくなり両手で頬を隠して唸り声を漏らしてしまった。